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亡国の世界線  作者: 二人兄弟
α世界線編
7/11

ヨーク砦防衛戦Ⅳ

ヨーク砦外郭】



「……というわけで反対されてしまったのですよ、コーデリア」


 シルヴィアは大きく溜息を付いた。何かと気苦労の多い立場なのだろう。テーブルを挟んで向かい合う――コーデリアと呼ばれた女は小気味よく相槌あいづちを打ち、首を縦にふりふりひたすら「同意」の姿勢を貫いている。女はスカーレットを基調とした派手な軍服に身を包んでいた。


 これだけでも異様に目を引くのだが、なにより目立つのが鶏冠とさかのような紅の立髪たてがみである。粗野で乱暴な印象を与えるものの、「ああそうだな」、「ああ全くだ」といったように基本的に聞く方に回っているところを見ると、存外『聞き上手』でもあるようだ。そこまで目立ちたがり屋というわけではないのかもしれない。


 シルヴィアこと、シルヴィア・スチュアートとコーデリア・フォレストは元々戦争孤児であり、長く生活を共にしてきた気の置けない間柄である。2人は路上で出会い寄り添って暮らしてきたが、その生活にも限界を感じたため、一念発起。共に孤児院に入居した。孤児院に入ってからというもの、さほど孤児院を悪い場所でもないように思っていた2人だったが、それは2人の幼さ故。今思えば、なんと平和ボケしていたのだろう、と思うこともままあるのだった。


 真実を知ったのは孤児院に入り2年目の頃だった。病気にかかる者が次第に増え始めた頃だった。幼い2人はその原因がよく解らなかったが、2年目の春先。シルヴィアは偶然、その原因を直に目にしてしまうことになる。


 それは普段は絶対に起きない25時頃、寒さで目が覚めたある晩のことだった。シルヴィアは寒さのせいだろうか、突然、かわやに行きたくなってしまった。すぐに眠気で眼をこするコーデリアを起こすと、半ば無理矢理引き連れ、一緒に厠へと向かったのであった。


 途中で「深夜はどんなに厠に行きたくても我慢しなさい」と修道女に言われていたことを思い出したがどうしても我慢できず、「厠に行って怒られるなんてことない」と思い直し、そのまま向かったのであった。かわやは裏手にあり、裏の山には墓地があるため正直かなり怖かった。


 裏手まで行くと、厠の向こうに「ぽぉ……」というぼんやりとした灯りが見えた。


――「あれは何だろう?」

 

 シルヴィアは興味本位で厠のすぐ傍の塀をひょいと越え、灯りが見える場所へと歩いた。少し遠いような気もしたが、後ろを見るとコーデリアも「うーねみぃ……」と言いながら従いてきていた。今更引き返すのもどうかと思ったので、気にせず前へ進むことにしたのだった。ぼんやりと闇に浮かぶ小屋が見える。簡素な造りであった。


 ――「こんな所に小屋?何故?」


 理由は全く浮かばなかった。


 刹那。


「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 小屋から悲鳴が。


「な、なんだ!?」

「なんですか!?」


 咄嗟とっさに声が漏れてしまった。まずいっ!


「誰かいるのか!?」


 野太い声がした。――しまったっ!逃げなきゃ!


 裸の男と一糸まとわぬ少女の姿が視界の片隅に見えた――ような気がした。


 その後のことはよく覚えていない。どこをどう走ったのだろうか。


 2人は手を繋ぎ、必死に逃げて逃げて――逃げた。


 怖くて怖くて怖くて――仕方なかった。


 誰かが追いかけてくるような気配がして、無我夢中で道なき道をひた走った。


 そして行き着いた先が――あのロイド・サーペンダーていだった。孤児院の普及のため多額の資金を寄付しただけでなく、実際に孤児院を訪れ孤児に学問を教えて回る奇特な人物だった。その為か、彼は『お髭様』と孤児に慕われ、頼りにされていた。


 ――「君たち孤児は言わば、生まれながらの不遇である。しかし不幸ではない。何故なら私がおるからだ。私は君たちの光になりたい。父母、否それ以上の存在でありたい。困った時は私を頼りなさい。私は常に領民と共にある。孤児も立派な領民なのだ」――


 2人は転がるようにして門に駆け寄り、助けを乞う。この頃には頭の良いシルヴィアにはあの光景のおおよその見当が付いていた。


 あのまま、あそこにいれば私達もいずれ――?


「お願いします、ここしかないんです……開けてください」


 今にも消え入りそうな声。


 すると、どのような構造になっているのかは解らないが門はゆっくりと開き、どこからともなく声がした。


「もう大丈夫だ。私は君たちの味方だよ、孤児のお嬢ちゃんたち」


 シルヴィアは、この晩振舞われた温かいスープの味がいまだに忘れられないのだった。その日から、2人はロイドに気に入られ、侍女になった。ロイドへの恩返しのため、2人が望んだことであった。



 孤児の少女はある一定の歳になると、孤児院存続のため春を売ることを強制されるのである。無論、いくらかは孤児院を管理する修道女の懐に入る。つまるところ、孤児の少女は修道女が私腹を肥やすための性の道具にされるのである。


 毎夜、金を持った男が孤児院に通い、年端のいかぬ少女を抱いていた。初めそのような現実が解らなかったのは孤児院の裏手の山の小さな小屋でそのような売春が行われていたからである。2人の見た「病気」とはすなわ梅毒ばいどくであった。


 これらは全て治安を取り締まるロイドの部下が調べた情報である。例の孤児院は取り潰され、ロイドが新たに新設した孤児院に全員移されたのだった。勿論、修道女や顧客となっていた男は見つけ出して牢に入れた。ロイドにとって領民の尊厳を汚す者は犬畜生にも劣るのであった。



「ポイントは炊飯です。その変化に気付きましたか?」


「飯?お前腹減ってのか?」


「減ってませんよっ!人を食いしん坊みたいに言わないでくださいっ!」


 コーデリアは出しかけていた乾パンをそそくさとしまった。


「そうか、ならどうした?のどが渇いたか?」


 後ろ手に持っていた水筒を差し出すコーデリアだった。 


「違いますから。煙の量が圧倒的に少なくなっているのです」


「量?」


 聞き返しつつ、コ―デリアは水筒も持参の軍用サックにしまったのだった。何故か、残念そうだった。


「はぁ……わからないのですか?」


「ごめんな、コーデリアさんはなぁ?栄養がどーも胸に行き過ぎちまったようだ。いいな、栄養が頭にいったやつは。うらやましいなーほんとー」


 胸を強調するようにのけぞるコーデリアだった。胸元がパックリV字に割れ、開いている。なかなか扇情的なデザインの軍服である。


「ぐっ……それでは私が『何か』足りないみたいじゃないですかっ!」


「さてどうだろうなぁ?にひひ」


 言いつつ、コーデリアは視線をシルヴィアの胸元に落としたのだった。すごく――控えめだった。それはまさに平野とも言うべき――(ロイド的な何かに止められたので自主規制。)


「とっとにかくです。問題は炊飯ですが、特にその煙なんですよ」


「へーよーわからんなぁ」


 頭をポリポリと掻くコーデリアだった。


「説明が面倒なので後は自分で考えてください……私は疲れました」


「そうだな、説明しない方が賢明だ。どうせわからんっ!」


「ふんぞり返って言うことではありませんから……。まあとにかく反対されたんですよ。我々の知らない間道を使った奇襲の恐れがある、と進言したのですが」


「奇襲?そうなのか?」


「はい、ですから念の為側面、それから後方に備えるよう言ったのですが……『正面からの攻撃に弱くなるから容認できない』と言われてしまいました。側面の防備増強だけはなんとか取り付けましたが」


「お前がそう言うんだったら実際あるんじゃないのか、奇襲?」


「はい恐らく……しかし偽計フェイクである可能性もありますので。『兵を奇襲の為、別に移した』と見せかけ前方から全軍で強襲することも無いとは言い切れません。こちらの無線が通信妨害ジャミングにより潰されている――これだけでは奇襲を企図していることの明確な証拠にはなりませんから」



「はぁ……あの『髭もじゃ』は馬鹿なのか?あー……もしかしてぇ?またあの病気かよ?『私は常に領民と共にあるキリッ』てか?」


 やれやれといった体で肩をすくめるコーネリアだった。『髭もじゃ』と呼んだのは無論、ロイドのことである。ロイドは領民を何より第一に考える男だが、ともすると領民1人のために100人を殺しかねない、計算ができない面があり、犠牲を最小限に抑えることの為ならば自ら死地に飛び込むことも辞さないところがあった。率先して陣頭に立つというのも、彼が勇猛果敢であるからというよりはむしろ戦をあずかる大将としての自覚が足りないからといった方が適当だった。奇襲に備え、全面から決死の強襲を受けてしまえば甚大な犠牲が出る。ロイドはそう考えると、いまいち煮え切らないのだった。



「そうですね。貴方の予想通りです、コーデリア。でもですね……?」


 ちょっと俯きがちにゆっくりと口を開こうとした矢先、コーネリアがすかさず口を挟んだ。


「『そんなすごーくはずかしぃーことでもぉー堂々と言ってのける男なんてぇそうそういないのですよぉ、ぽっ。きゃーお髭様好き好き愛してるー!』ってか?そりゃまーおアツイいことで」



 コーネリアのあからさまに小馬鹿にしたデレデレ演出に見る間に顔をあかくするシルヴィア。



「ななっ!?そそそそんな……あああ頭の悪い女みたいなことなんてぇ……えっと……い言ってないでしょ!?」


「言ってなくても思ってるんだろ?態度に出てんだよバーカ」


 あっかんべーをするコーネリア。子供っぽい女だ。シルヴィアもたいてい解りやすい女だが。


「馬鹿とは何ですか馬鹿とはっ!?」


「……なあ?」


「……はい?」


「……髭もじゃは守ろうな、たとえ命に替えても。それが通すべき筋ってもんだ」


「はい、そうですね……必ず」


 2人は互いに互いをじっと見つめ、温かい一時に微笑みを交わしたのであった。


 ポトッとコーデリアのポケットから何かが落ちた。シルヴィアは拾い上げる。


 板チョコだった。


「チョコレートとは意外ですね?好きでしたっけ?」


 シルヴィアは板チョコをしげしげと見つめる。


「いや……あーそれはだなー」


 手をもじもじさせ言葉を濁すコーデリア。らしくもない。


「あ、なるほど。そういうことですか」


「あーえー……なんというか、ねぇ?」


「私のためですか、甘いもの好きですから」


「えーあー……うん、そうだ」


「ありがとう、コーデリア」


「……うん」

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