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亡国の世界線  作者: 二人兄弟
α世界線編
3/11

ホーン砦解放戦Ⅰ

【地下道にて】


 エイミー・アップルガースは『血塗林檎ブラッディアップル』の異名を持つ女である。無論、その異名は伊達ではない。王国軍ではコードネームのようにその名が呼ばれ続けていた。少し前までは。


 『血塗林檎』は政府軍による地方軍反乱鎮圧の際に投降してきた少女である。


 当時から腕利きの狙撃手スナイパーとして名を馳せていた彼女が地方軍所属時、立てこもった城塞じょうさいは【アルバ城塞】という拠点だった。その拠点の攻略を任されたのがご存知、山内龍堂だったのである。当時は少将だったが。


 彼女は投降するため、まず城外で交戦中だったアルバ城塞大将の頭を城内部から撃ち抜き殺害し、麾下きかに城内部に火を放たせた。恐慌に陥った城は内部からの開門によりあっけなく陥落した。


 山内による調略の成果、と表向きにはされたが実際には違っていた。


 彼女は投降時、はっきりとこう言ったのだ。


「一目惚れでした……ぽっ」

 

 その功を認められ、山内は中将に出世、エイミーは軍曹にまで躍進した。


 当時の様子がありありと思い浮かぶ。今でも伝説となっている【ワンウィーク攻略】である。


 山内にとってはあまり気分の良いものではなかった。自分の成果でないからだ。エイミーがいなければ勝利はしていたろうが、きっとひどく長引き犠牲も拡大しただろう。名将と呼ばれるだけの自負を持っていた山内にはトラウマとして今でも心に深く刻まれている。



「ねぇねぇ、隊長さん?」


 エイミーが唐突に後ろから呼びかけた。こそっと耳打ちする格好である。


「何だ?」


 山内はぶっきらぼうに返事をした。


「アタシのこと好き?」


「あぁ好きだよ」


「嬉しい……げへへ」


 エイミーには何度か命を救ってもらったこともあるが、正直言って彼女の愛は重すぎる。山内の為ならば、自らを犠牲にしてまで戦場のど真ん中に飛び込んでいくこともある。ヨーク砦でも敵に包囲され、孤立無援となった山内小隊を助けるため飛び込み、助けられたことがあった。


 彼女は危うい。恐らく「俺のために死ね」と言えば平気で死ぬことだろう。無論、山内は彼女の愛を利用することなどしないし、したくはないだろう。だが、そのような場面が訪れた時、山内はそう・・言わない自信があまりなかった。皆を救えるのならばそう・・命じてしまうかもしれない。


 そうした場合、きっと生きてはいけないだろうから跡を追うことになるだろう。


 それで誰かを幸せにできるのだろうか?


 山内には解らないのだった。


「昔の想い人をどう思ってるの?」


「姫か」


「うん」


「忘れたよ……もう」


「彼女は愛してたんでしょ?隊長のことを」


「そう……いや、多分な」


「解らないの?」


「解らないんじゃない、解らなくなったんだ。夢にもめっきり出なくなった」


「そう……」


「……」


「でも大丈夫。アタシがいつもそばにいるから」


 エイミーは亡くなった姫のことが気になるのだろうか。彼女には似合わない陰が見えた気がした。


「ありがとう」


「うん」

 

 薄暗い地下道の天井には黒い染みがかすかに見える。人の顔のように配置されたそれらは、山内達の行く末をどこか嘲笑あざわらっているかのようにも思えた。


北東(ホーン)砦外郭にて】


 どっぷりと日が暮れていた。ランプの灯りがぼんやりと浮かんで見える。


「……えぇい!いつまでかかっておる!包囲してからすでに2月だぞ!」


「っ痛ぅ……も、申し訳ありません……」


 男は額の汗を拭きながら、ただただ平伏していた。


 連邦の女豹、オドレイ・グラスロングは喚き散らし、その行き場のない焦燥を持て余し、とにかく部下に当たっていた。ひたすら木棒で打ち据え、呻く部下を見ると少しは落ち着いたのか、座椅子に腰を掛ける。本陣の軍営は忙しなく兵士が行き交い、荒々しい声が飛び交っていた。独特の土の臭いが軍服に染み付いて離れない。


 オドレイはシャワーを浴びることもままならないこの状態がたまらなく嫌だった。


 次々に報告が上がってくる。王国軍の北東砦、通称【ホーン砦】攻略の犠牲は膨大であるとのこと。一騎当千の猛将、コール・ビショップが率いている為だ。予想を遥かに上回る犠牲だった。


 すぐ後の報告で、犠牲は2000以上と判明した。相手方の犠牲はおよそ400といったところであるからこちらは実に5倍の犠牲を出してしまっていることになる。


 これは非常にまずい。あと数日でとせなければ、代わりの指揮官が派遣され本土に召還される。


 確実に出世に響く。とにかく急がなくてはならない。



「ぎやぁあああああああああああああああああああ」


 軍営の外で耳をつんざく悲鳴が。


「どうしたというのだ!?」


「『角獅子』が出たぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお」


「なんだってっ!?バカな、数の利では負けるはずがない、血迷ったか!?」


「ご報告を、そそそその数なんと約4000!こちらとほぼ同数ですっ!」


「どういうことだ!?」


「わっわかりません!」


 軍営を含むホーン砦包囲軍は混乱に陥っていた。


 そんな中、敵軍の後方から叫ぶ者があった。音を増幅しているのか、ここからでもはっきりと聞こえる。反響しているためか正確な位置は把握できない。


「「敵将オドレイ、聞こえていますか?手短に申し上げます」」


「なんだ……」


「「ぎゃあぎゃあ煩い夜襲の目覚まし、いつもご苦労様です。でももう結構ですよ?すぐに止めに上がりますので……え、何をですって?」」


「……」


「息の根ですよふふふふ」


 そしてプツッと切れた。その間にも混乱は加速していく。大地が躍動している――そのようにも思えた。


「……くそっどこから出やがったこいつらぁあああああああああああああああああああああ!」


 すぐさまオドレイは愛用の双剣を手に軍営を後にした。


 まずは恐慌を沈めなくてはならない。


「コール……その首私がもらう」



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