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亡国の世界線  作者: 二人兄弟
α世界線編
2/11

ヨーク砦防衛戦Ⅱ

(ヨーク)砦にて】


「援軍は来ない、だが策はある。……皆いいか、よく聞くのだぞ?」


 ハンク、水島その他の面々は息を飲む。水島の汗がシャツを伝い、やがて固く冷たい石の床へと滴り落ちた。死者への弔いの涙のようでもあった。


「北東に何故砦が存在するのか、考えたことがあるか?」


 勿体ぶって話す山内の真意を掴みかねているハンクはいぶかしむ姿勢を崩そうとはしない。


「北東に置くものが物見櫓ものみやぐらのような簡素なものでは孤立した際に持たないからでしょう?援軍を待つには心許ないですからね」


 ハンクはさも当たり前のように言った。すかさず山内はハンクの額を小突く。


 ――痛てぇっ!


 ハンクはたまらずうめいた。恨めしげな表情だ。


「バカか、お前は。何故そんな場所に砦をわざわざ築く必要があるのか、と聞いている。ここ東砦が存在するのに、だ。遠視ゴーグルがこれほど普及した時代に、北東に新設する理由がどこにある?これまで不思議だとは思わなかったのか?」


 小首を傾げるハンクの眼には少し涙が溜まっていた。よっぽど痛かったのだろう。


「では前線を北に上げる必要があった、ということですか?」


「首都からより離れるというに、孤立の危険性を高めることにどんなメリットがあるというのだ、バカ者」


 ――痛てぇっ!


「……痛いです」


 戦場では子供ではない。どうも「痛い」をわざわざ言い直すところを見ると、ハンクという少年は比較的従順なタチのようだった。


 軍人気質なのかもしれない。


「南は首都、東と西は山。つまりどういうことだと思う、ハンク?」


「敵は北からしか来ない」


 今まで押し黙っていた水島が遮った。「正解だ」山内は満悦し言葉を続ける。


「北から東砦へのルートは一つ。そして東砦までは鬱蒼とした森が続く……」


「成程。……奇襲ですね?」


 ハンクは胸を張って言った。


「そうだ。おまけに湿地帯だから燃やし切ることも困難だ」


「では、森に潜んでゲリラ攻撃ですか?」


「バカ者。相手もバカではない。そのくらいは容易に予測できる。当然備えは万全だろう……そこでくだんの北東砦、だ!北東砦守将、コール・ビショップ准将と連携する」


「『角獅子』コール、か」


 終始無言を貫いていた高橋少佐が初めて口を開いた。皆、一様に驚き「いたのかよ……」と呟く。


 当人曰く、存在を消せるらしい。(それって影が薄いということでは?)


「そうだ、あいつが守る北東砦はまず落ちない。何故ならあまりの強さ故に王府に疎まれ、死地に追いやられた男女おとこおんなだからなっはははは!」


 山内は高らかに笑ったが、他の人間は誰一人として笑わなかった。彼女の想い人がこの山内であることは当人以外誰もが知っていることだからである。


 不憫でならなかった。彼女が。


「幼馴染だからって……ひどい言い草ですね。泣きますよ、彼女」


 ハンクは自らの肩を抱えた。呆れ顔である。


「あいつが『無線は傍受される恐れがある』と言うから、仕方なく念信テレパシーでやりとりをしていたんだよ、ずっと。これがひどく頭を使ってなぁ……全く困る。頭痛で毎晩唸っていたよ」


 山内はやれやれ、といった体である。


「で、具体的にはどう連携するんですか?間道なんてありませんよ、僕の知っている限りでは。あるのは敵軍が通る一本道のみです」


「あぁ、当たり前だ。なにせ地下道だからな」


「えええええええええ!?あったんですか、そんなの!?」


「情報はどこから漏れるかわからんのでな。秘密にしていた、すまない」


「王府も言ってくれれば良かったのに……やはり信用ならないのか僕らが」


「んーいやぁ……」


 何か引っかかる物言いをする山内、それと目線を露骨に逸らす高橋だった。


 何か言いたげな……非常に怪しい。


「実は王府も知らん。勝手に造った。反省はしていない」


「なんですとー!?」


 ――ぐあっ。


 驚きながらも、向かってくる敵兵を打ち倒す腕前は流石のこの少年である。


 高橋を睨むハンク。高橋もどうも知っていたようだ。


「王府になんか報告できるか、情報が漏れるだろうがっ!」


 「戦死した前任者とコールの計画で、元々この地下道計画ありきの北東砦だったんだ」と山内が付け加えると、ハンクは少し安心したようだった。少なくとも山内の独断ではないからだ。


「逆ギレですかっ!?時々夜襲を掛けて敵を疲れさせ、時間を稼いでいたのはその為だったのですね……で、ようやく完成した、と?」


「そうだ」


「後でどうなっても知りませんよ……?はぁ」


 どのみち王府の無許可という現状に変わりはない。明らかに軍法会議ものだろう。


「高橋とハンクには砦に残ってもらい、継続して砦の防衛を命ずる。なお砦の臨時大将を高橋、副将をハンクとする」


 ハンクは少し不満そうだったが、この砦を守れる腕前を持つ者は山内を除けば自分しかいないことをわかっていたため渋々従った。物わかりの良い人間のようだった。合理的というべきか。感情で動かない所に、山内はいずれは大将の器を見ていた。


「残りの主だった者は全て俺にいてこい!」


「「おぉー!」」


「「やるぜぇー!」」


「安心して暴れて来いな、龍の坊や?」


「高橋……もういい加減その呼び名はやめてくれ、恥ずかしい……」


「おぉそうだったな。もうお前は立派になった」


 高橋は遠い目をしていた。何か大事なものを過去に置き忘れてきたかのように。


 寂しげだった。


 淡い記憶の彼方、何処いずこに。





【地下道にて】


「このまま地下道を通り、北東砦にほぼ全軍を移動させ、そこでコール以下防衛部隊と合流。その勢いに乗って北東砦周辺の敵を追い散らす。深追いはするな。まずは包囲交戦中の北東砦の完全奪還が目的だ。拠点を確保し、後顧の憂いを絶った後は、すぐさま後方から森に入り、孤立した敵侵攻軍に奇襲を掛ける……良いか?」


「了解」


 と水島。眼鏡が少しずれ落ちている。


「ががががんふぁりひゃす」


 と小動物、ではなく小山。非常に小柄で頼りないがこれでも衛生兵長である。れっきとした男だが少女にしか見えない。


「姉ちゃん元気かなぁ?また白の着物が真っ赤に染まってたら嫌だなぁ……」


 なんて恐ろしいことを言うのはコールの弟、リッド・ビショップ。姉を追ってこちらに来てからは山内にすっかり懐いてしまっていた。若干16歳。


「全員アタシのP-mm3で撃ち殺す。ハンクばっかいい思いして許さないんだからっ……げへへ」


 肩に掛けた愛銃を撫で回し気色悪いニタニタ笑いを浮かべていた。エイミー・アップルガース。せっかくの整った顔は崩れ、美少女が台無しである。彼女はこう見えて、異色の経歴を持つ名うての狙撃手(スナイパー)であり、山内からは信頼を寄せられている。階級は軍曹(ぐんそう)



 残存兵約2000を連れた、山内一行であった。高橋率いる留守部隊は300程であり、ほぼ全軍である。


 ランタンのみが頼りという、なんとも不安な明かりをもとに一行はただ前へ前へと歩を進めるのであった。その明かりは明日への道標となるか、はたまた三途への灯篭(とうろう)となるか、果たして?


 

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