表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の世界線  作者: 二人兄弟
α世界線編
1/11

ヨーク砦防衛戦Ⅰ

R15は保険です。

 絶えず小窓から矢が射掛けられ、息つく暇もない。砦の内部はすでに疲労困憊の様相を呈していた。馬の死骸を食らうこともあり、腹を下した者も多数いた。凄惨である。


 犠牲は数百か。はたまた数千か。把握しきれない。城外にはしかばねおびただしい程に積み重なっていた。眼を見開き、力なく項垂うなだれる様は哀れだった。その光景を見、思わず吐き気を催す者も少なくない。


 積み上がる屍を踏み越えこちらに向かってくる者はことごとく、サイレンサー魔導銃まどうじゅうG-mm4で打ち倒され、また一つの力ない死の奴隷へと姿を変えていくのであった。 


「っく!援軍はまだか、ハンク?」


 矢がまた射掛けられた。窓際には寄らない。離れた距離からほぼ勘だけで撃つのは至難の技であるはずだが、この男とその傍らで銃を構える少年はいともたやすくこなしてみせる。


「いえ……こちらの窓からは土煙一つ見えません。無線も反応なしです、山内やまのうち中将」


 ハンクと呼ばれた少年は敵軍とは真逆、すなわち首都ヴィシーの方へと双眼鏡を向けている。


「なんということだ……これでは持たんぞ」


 唇を噛みしめ、焦りを隠せない山内だった。


「見捨てられたのかもしれませんね。なにせ我が隊はその――外省人がいしょうじんの特別編成部隊ですから」


「そんなことはない、必ず来る。諦めるなっ!」 


 魔導力の源泉、魔導力造成装置ジェネレータのメータはほぼゼロを指していた。

 小国マルシスタの東、某砦にて攻防は激しさを増していた。


 敵将ロイド・サーペンダーは馬上で一人静かにほくそ笑む。


「来るならば来い……」




 小国マルシスタ。


 夏は蒸し暑く、冬は暖かい。四方を鉱山が囲む、資源大国である。古来より攻めるに難く守るに易い、天然の要害とされてきた。


 現在では、大陸において王政を敷くほぼ唯一の国となっている。小国の連合から成るゴルドア連邦の南方、及び大日華帝国だいにっかていこくの西に位置している。時代は帝国主義の最盛期に突入し、大陸では幾つもの国家が生まれ、そして消えていった。


 マルシスタ自身はその国体を変えず、小規模ながらどの国にも属さず独立自治を貫いているものの、その「隣人」の国名は?と聞かれれば枚挙にいとまがない。ゴルドアも数十年前は王政であった。旧国王は国内に跋扈ばっこした革命軍に連れ去られ、後銃殺刑に処された。血で血を洗う戦争は王の死という最悪の決着で幕を閉じた。ゴルドアは地方軍閥がひしめく強国ならぬ「凶国」と化している。大日華帝国といえば、近代化に伴い王政から帝政へとシフトした。紆余曲折を経て、王は無血開城し貴族として遇されているところを見る限りにおいて、民度が相当に高いとわかる。


 数百年来、マルシスタは大日華国と深い同盟関係にあり、親交を結んできた。大日華帝国政変の際には大日華帝国亡命政府の設立を許し、かの国の帝を匿った。無事、旧政府軍と内外で呼応し帝が復権してからというもの、その関係はより強固なものになったといえる。


 マルシスタ暦814年。大日華帝国皇室の血筋を受け継ぐ来宮くるみや家出身の前国王、来宮ブラド14世が崩御した。突然の死だった。


 跡継ぎを決めていなかったため、後継者問題が急遽浮上し、内乱に発展。結果、反乱軍が勝利した。一時即位した来宮家の次子、来宮ソラは政権の座から一年と経たずに引きずり降ろされ、程なくして反乱軍は外戚バークライト家出身の現国王を擁立した。名をアラン・バークライトといった。一代目の国王の血筋を受け継ぐ由緒正しき家柄である。


 だが事態は収束するどころか、混乱を極めていくこととなる。


 アランは即位して間もなく政変の功労者を次々粛清し、それに反発した地方軍を容赦なく鎮圧した。


 しかし、そのような暴挙に地方軍閥は激怒し、ゴルドア連邦の介入を許すこととなってしまう。まさに内憂外患状態へと突入したのであった。


 815年12月、ついにゴルドア連邦が宣戦布告。


 そしてゴルドア連邦軍はここ「ヨーク砦」にまで迫ったというわけである。

 砦を守るは山内龍堂やまのうちりゅうどう中将。率いる第三十二特別守備隊は外省人がいしょうじん、言い換えれば大日華帝国からの移民から構成されている。


 何を隠そう、山内中将も外省人であった。前任の指揮官が戦死した為、急遽抜擢されたのである。「眼には眼を」ならぬ「外省人には外省人を」なのであった。


「中将、もう限界かと……」


「弱音を吐くな、水島ぁああああ!」


「っぐぅあああ」


 強烈なビンタの炸裂音が砦に響き渡った。水島の頬が赤く腫れ上がる。声にならない声で呻いている。


「お前は大丈夫だ、死なん!」


「な、なんで……そんなことが言い切れるのですかっ!中将はお強いからそう仰るのです!」


「大丈夫だ」


「……何か策があるのですか?」


 黙っていたハンクがようやく、ゆったりとした口調で訝しげに口を開く。


「あるぞ、お前らは死なん」


 不敵な笑みを浮かべる山内。


 水島には、振り返って腕組みをした山内の背中はとても大きく見えた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ