表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

全員で宿題、でも何にする?

 美智子が日本に戻ったタイミングはあまりにも悪かった。なぜならば、夏休みが近かった。当然、夏休みは学生達に与えられる最高の期間。美智子は嬉しかったが、宿題の量が半端じゃなかった。まはや、新聞10刊以上は越えるであろう文字数の多さ。それが頭を悩ませる。

 何よりうざいのは、自由研究。美智子は、突然自分で何かやれといわれて出来る人間ではない。故に自由研究に対する嫌気は人並み以上だ。無論、1ヶ月もあれば何とかなるのだが、美智子は初日に宿題を終わらせ、後は遊ぶタイプだ。きっと忘れてしまう。事実、これまでの人生で自由研究をやって来たことはたった1度さえない。これは誰しも知られてない、覚えられていない自己ギネス級だ。

 夏休みまでまだ4週間はある。きっとその間に何か思いついているだろう。美智子は自由研究を何にするか頭を悩ませている。

 すると、後ろから美由紀が話しかけた。

「みっちゃん、どうしたの?凄い化け物じみたうなり声を出してるけど?」

「(ば、化け物?)自由課題を何にするか考えてるの」

「今?まだまだ夏休みまでずっと先だよ」

「でも~、私、自由とか自習とかそういうの苦手ジャン……」

「あ!そう言えば、みっちゃん小学校の頃から自由研究やって来てないね」

「(覚えてたんかい!)まあ、今年くらい真面目にやんないと!」

「ふふふ、みっちゃん、また忘れるよ?きっと、いえ必ず」

 馬鹿にされた気分だった。いくらお人よしの美由紀でも、皮肉や人を馬鹿にする言動を言うことを今さらながら痛感する。これが美由紀の皮肉。何ともおざましいものだ(他人からすれば、たいしたことないであろう)。

 放課後、自宅(健一と同居中のマンション)に帰った美智子は、真っ直ぐベッドに向かった。頭が痛かった。いや、本当は痛くなかったが、痛いことにした。それなら、ベッドに寝込んでも、誰も文句は言わない。すると、健一も帰ってきた。

「ただいま……はあ~」

 健一もため息ついていた。どうしたのだろう?いつもなら、きっと冷蔵庫からプリンを取って見せびらかしながら食べているのに。

「桜井君、どうしたの?」

「高橋か、まあ、俺の愚痴聞いてくれないか?」

「い、いいけど?」

「実は、俺夏休みの自由研究苦手なんだ」

 突然親近感沸いた。

「え?どういう意味?」

「俺って、自由に何かやれって苦手なんだ」

「私も!」

 思わず言ってしまう。嬉しかったのだ。同居人の共通点がこうも早く見つかるのは。

「お前も?!すると、お前まさか……」

「まさか、何?」

「まさか、俺と同じで過去一度として自由研究の宿題を完成したことがないのか?」

「ないない!全然ない!まったくない!ありえない!木っ端微塵」

「そうか…そうか!まさか、同居人が同じタイプの人間だ何て……嬉しいやら、嬉しくないやら」

「どうするの?」

「そりゃ、考えるさ、今から」

 美智子は、同居人がこうも自分と似ていると、恐ろしくなる(もっとも、共通点は自由課題が苦手以外はまだ判明していない)。


 美智子は、朝はいたっていつも通りだった。目覚まし時計という名の鬱陶しいが、ありがたい存在に起こされ、トーストを食べ、葉を磨く。ここまでは同じだった。

 しかし、誰かがインターホンをならした。最初は新聞屋か隣に住む橘かと思い、大して重要視していなかった。

「俺が出るよ」

 そう言って、健一が玄関に出たので、美智子は安心してセーラー服に着替えた。だが、聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれ?桜井君、ここみっちゃんの家じゃなかったの?」

 しまったと拍子抜けな顔をした。それは美由紀の声だった。思い出せば、美由紀と彩が迎えに来ると言っていた。美智子は、すぐに玄関に向かい、弁解しようとした。

「あの、ゆっちゃん、これには―――」

「みっちゃん?!これってどういうこと?もしかして、私達に内緒でもう出来てるわけ?!」

「高橋さん……不潔です」

「「違うよ!!」」

 美智子と健一が同時に言い出した。

「どっかの詐欺業者のせいで俺達が同居する羽目になって―――」

「そう!別に彼氏とかじゃないんです!ただ詐欺業者のせい!」

「そう、水戸って糞業者のせいだ!あのくそ、クソ、糞業者のせいだ!」

 美由紀と彩は呆然としていたが、やがて冷静さを取り戻した2人の話を聞き、事情を理解し、誤解を解いた。おかげで、当初は美智子、美由紀、彩の3人で登校する予定が、そこに健一、待ち伏せていた橋本が加わり、5人になった。

 すると、教室に居たローズが、美智子の自由課題の愚痴を聞き、ある提案をした。

「高橋ちゃん、それなら、いっそ共同自由研究やらない?」

「共同?」

「そう、誰かと一緒に自由研究すれば、問題こそあるけど、意見を出し合えるし、全員と一緒にすることで無駄な揚力を使わないし、何より楽しいじゃない」

「それもそうね」

 当初では、これも美智子、美由紀、彩、ローズの4人でやるつもりだったが、そこに助けを求めた健一、泣きながら一緒にしてくれと頼んだ橋本、橋本の誘いで来た矢川俊彦、そして超秀才の遠藤円が加わり、ある意味最強のチームが結成された。軍隊風にチームを紹介すると、実行犯――ではなく実行力のある美智子、愛想の良い通訳や公証人ポジションの美由紀、圧倒的な理解力を持つ彩、生まれつき天才の健一、嫌われ者の橋本、オタクながら天才雑学者の矢川、美人秀才の円、外国人のローズ。誰がどう見ても最強最凶最狂のチームだ。これなら怖いものなしだ。

 美智子達は早速、美智子と健一の自宅で作戦会議を開いた。

「ここは夏らしく毎日の気温の観察を」と円

「いや、ゾンビ映画の研究だ!」と橋本

「夏は昆虫観察では?」と矢川

「交通量は?」とローズ

「いや、どこのモンブランが一番美味いかの研究!」と健一

 意見がばらばらだった。

「思うようにいかないね」と美由紀は呆れながら言ったので、美智子は呆れながら頷いた。彩は全員の意見をノートに纏めた。

「でもここが日本でよかったぜ」と矢川は言い争う連中から抜け出し、汗だくにありながらそう言った。

「どういう意味?」

「だって、外国、たとえばコスタリカとかだと、危ない伝染病を持った蚊とか居るんだ。そんな蚊に刺されてみろ?伝染病に罹るぞ」

 美智子は呆れながら頷いた。ん?待て?

「今なんていった?

「いや、伝染病に罹るぞって」

 伝染病、感染症、インフルエンザ、ノロウイルス、コレラ、狂犬病と次々と病名が頭に浮かんでくる。アウトブレイク、パンデミック、隔離、日本封鎖………

「3年前の感染症!!」

 美智子は思わず大声で言い出したので、全員が口をぽかりと開けて美智子を見た。

「あれを皆で調べるのよ!せっかくこんなに人数が居るんだから、あれを調べて、皆で発表しましょう!」

 全員は始めこそは黙って居たが、やがて小さく、だが強く頷き、賛同した。これは全員にとって良い機会だった。実のところ、3年前の感染症については、誰も話題にはせず、あまり気には掛けなかったが、この機会に、是非にと知っておきたい情報だった。

 結果、3年前の感染症について調べることにした。感染症自体だけでなく、それに関連した事件、例えば同じく3年前の日本隔離なども調べるつもりだった。

 こうして美智子、美由紀以外は自宅に帰り、健一は駅のコンビニで売っているコーヒープリンを買いに言った。

 全員が出て行くと、美智子は冷蔵庫から麦茶を取ると、コップに注ぎ、テーブルに座る美由紀にコップを渡し、自分も椅子に腰を掛ける。

「みっちゃん凄いね」

「何が?」

 麦茶を飲みながら、美智子は聞き返す。美由紀は微笑みながら、麦茶を飲む。

「だって、あれだけもめてた会議をたった一言で止めちゃうんだもん」

「いや、偶然全員の好奇心が一致しただけで……」

「それでも3年前、自分達の国を汚した伝染病を調べようって思う人、思いつく人って相当いないよ?」

「……」

「どうしたの?」

「実はあたし、お母さんがいないんだ」

「え?でも以前あったときは元気そうだったよ」

「それは3年前、今はもういないんだ」

「……」

「きっと、あの伝染病にかかって……」

「みっちゃん」

「悔しいのよ、もしあの伝染病があたしの母を殺したなら、なぜ伝染病についてあまり知らないんだろうって……それで、母を殺したかもしれない伝染病を知っておきたいって。おかしいかな?」

 美由紀は首を振った。

「ううん、おかしくない。全然おかしくないよ」

 美智子は空気が暗くなっているの気づき、話題を変えて明るくしようと思った。

「そういえば、うちの隣が橘先生なの」

「え?橘椿先生?」

「うん」

「嘘!先生と隣なの!いいな~」

「え?そんなにすごいの?」

「だって、橘先生はすごく優しいんだよ。社会科だけじゃなくて、色々な教科の分からない問題を分かりやすく説明するし、会話も恐ろしいくらい同世代の人と話しているような感じがするし、何より可愛いじゃない?」

「可愛い?」

「だって、あの人どちらかというと、とびっきりの美人という感じじゃなくて、もっと実年齢より幼い感じがして、それに美形だし」

「分かる分かる」

 橘の話題をしている美由紀の目が輝いていた。よほどあの先生が気に入っていたのか、美智子は橘と話す機会が少ないから、どういう先生かあまり知らなかった。

「そう言えば、ゆっちゃんってどうしてそんなに橘先生が好きなの?」

 美由紀は一瞬と惑ったが、やがて真剣な顔をし、口を開いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ