転校生
「綺麗だよ、美智子」
「お幸せに」
「一安心だわ」
多くの友人や親族の前で、美智子はウェディングドレス姿で、教会の中に居た。ついにこの日がやって来た。女にとって究極のサプライズ、結婚。
すると、花婿が現れた。
「お待たせ、美智子」
「あ、待ったよ」
そこには、橋本順平が立っていた。
美智子はベッドから転げ落ちた。激しい脳震盪を起こしたように震えたが、立ち上がる。
「ひっ夢……良かった夢か」
すると、健一が入ってきた。
「大丈夫か高橋!」
「うん、大丈夫、悪夢を見ただけだから。超不吉な」
「不吉って何だよ!」
美智子は美由紀と彩に今日見た悪夢の夢を話し、それを聞いた橋本が怒った。
「ま、まあ、ある意味幸せじゃない?」と美由紀。
「そうですか、私は不吉です」と彩。
「でしょー?超怖かったよ。エイリアンとプレデター、あるいはジェイソンとフレディとブギーマンとレザーフェイスに追っかけられるくらい怖かったよ……」
「みっちゃん、ちょっとマニアックだね……」
「それくらい怖かったんだから」
すると、彩は美智子にとって21世紀の歴史に残る問題発言をした。
「これは推測ですが、高橋さんは橋本さんに意識があるのでは……?」
「「は?」」
「え♪」
美智子と美由紀は口をあんぐり開けて、呆然としていたのに対して、橋本は狂気のダンスを踊った。
「あやちゃん、たぶんみっちゃんに限ってそれはないと思うよ」
「ないないない!!絶対無い!!ありえない!!それなら、プレデターと彼氏になったほうがマシ」
橋本は机の下にもぐり、体育座りし、しくしくと涙を流した。
「そこまで言わなくても……」
美由紀はあまりにも橋本が哀れに思い、話題を変えようとした。
「そういえば、研究部が何か部室にこもって何かしてるみたいね」
「知ってます。何かバイオを研究してるって噂が流れてます」
すると、橋本が顔を輝かせて言った。「怪しいウイルスを培養してるとか……霊長類にしか感染しない」
「はいはい」
「橋本さん、『24』の見すぎです」
「元ネタは『28日後・・・』なんだけど……」
「だからもてないんだよ」
橋本は再び机のしたにもぐった。
「みっちゃん、少し言いすぎだよ」
「え、そう?」
「おお、美由紀様!我がガブリエル!」
この台詞には、さすがに美由紀も引いた。
「え?皆引いたの…………」
橋本はとぼとぼと自分の椅子に戻った。
すると、橘が教室に入ってきた。
「えっと今日は担任が休みなので、HRは私がやります」
クラス中がおおっと言った。中年爺さんよりも若い女性のほうが望ましかったのだ。
「早速ですが、転校生を紹介します」
一瞬、クラスがざわついた。転校生と言う3文字に、全員が期待を膨らませた。男子は可愛い子、女子はイケメンを期待した。美由紀と美智子は愛想がよければどちらでも良かった。
「入ってきてください」
すると、転校生が現れた。
大きく滑らかな足取りで進んでくる。自身のみなぎった歩き方だ。赤褐色の豊かな髪がポニーテールに纏められ、優しそうな顔立ちが好印象だった。それは女子だった。
「今日から皆様と同じクラスになるローズ・レナーです。よろしくお願いします」
全員が歓喜に満ちた。女子にとってはイケメンじゃなくて残念そうだったが、それでも愛想良さそうな顔立ちに、ぜひとも友達になりたいと思ったのだろう。
「いきなりですが、席替えをします。皆さん、くじを引いて」
全員が席替え待ってましたと回される箱に手を突っ込み、くじを引いた。結果、美智子は教卓の目の前の席になったが、後ろは美由紀、その後ろは彩、その後ろはローズ、右は健一、左は栗山一輝と良い面子が揃った。美由紀の右は橋本、左は岡田と、ある意味悲劇だが。
そしてそのまま、1時間目の社会科が始まった。
美智子は、社会が苦手だ。と言うのも、日本の歴史は感じが多いから、覚えられないのが現状だ。織田信長や、日米和親条約や、世界恐慌やらと、非常に多い用語を覚えきれずに居た。それに対して美由紀と彩はすらすらと暗記してしまう。美智子は2人が実はアンドロイドではないかと疑ってしまうが、単に自分の学力がないと自覚している。
今の時代は明治時代だった。と言うのも、しばらくはそれぞれの時代の基礎を軽く覚え、後に最初から今度は細かくやると言うのが橘の魂胆だった。だが、ここに来て橘は唖然とする。クラスの大半はちゃんと勉強して居たが、数人は居眠り、不要物などで暇つぶししていた。どれも不良の様な格好をしていた。無論、教師としては注意すべきだが、まだ経験がなく若い橘は報復されるのではないかと怖がっていた。あえて、今回は見逃した。だが、自分の臆病には反吐が出そうだった。
美智子は、頭を抱えた。感じが多すぎて、頭の容量が限界に達した。
―――このままではパンクする!
美智子は、あることをひらめいた。寝れば人は1日の半分を忘れると聞いた。なら、ここで寝て、頭の中のデータを消して、容量を軽くしよう。
しかし、これには問題があった。もし授業中に居眠りすれば、関心・意欲・態度が下がってしまう。しかしこのままでは、頭がパンクする。どうすれば……
ここで、彼女は思った。アップグレートしよう!いや、プレステーションじゃあるまいし、そんなのは無理だし、ああ、どうしよ!頭痛がしてきた!ええい!思い切って寝ちゃえ!
美智子は眠った。深い、覚めることのない眠りに。何てことがあったらどうしよう?いや、ないよね。あるはずないよね。
美智子は今度こそ眠った。
橘は美智子を見た。眠っていた。しかし、今回は大目に見ることにした。と言うのも、美智子は昨夜夜中まで起きていたのか、目のくまが酷かった。それに具合が悪そうだった。このまま授業を進めて、悪化されたら元も子もない。橘は今日は見逃した。
おかげで、社会課が終わった頃には美智子の脳の容量は軽くなった。
「ふぁ~、良く寝た」
「みっちゃん、授業中は寝ちゃ駄目だよ」
「分かってる、今日だけ。」
「本当に?」
「うん」
すると、次の授業は英語だと知った美智子はピンチを迎えた。自己紹介の文を完成させていなかった。これには焦りを感じた。
「ゆっちゃん」
「なぁに、みっちゃん」
「ごめん!一生のお願い!自己紹介の文考えるの手伝って!」
「も~、もっちゃんたら。今日だけだよ」
「ありがとう!!」
そう言って、美智子は美由紀の支援のもと、見事に文を完成させた。そして英語の時間には、見事な文を発表し、アリアから絶賛された。
そして、授業が進み、あっという間に昼休みだ。美智子はローズの席に向かった。
「レナーちゃん、久しぶり!」
「高橋さん!」
2人は再会を喜び合った。周りが2人の関係を不思議がった。ローズは、美智子は難民としてアメリカに滞在中、一番仲が良かった人物だ。親友といっても過言ではない。
「まさか日本に来るなんて驚いたよ」
「うん、私、日本好きだから
「みっちゃん、お友達?てゆーか知り合い?」
「うん、米国滞在中の大親友」
「みっちゃん、私より顔が利いてるね」
「そう?そうかしら?」