こうして引っ越しました
美智子は、自宅に帰ると、あることを考え始めた。と言うのも、たかだか学校に行くために毎日1000円近くの大金|(美智子にとっては)を失うのは気持ちの良いものではない。どうにか節約できないだろうか。と言うより1人暮らしがしたかった。
美智子の行動は早かった。考えるよりも、動くタイプだ。
すぐにパソコンの電源を入れ、インターネットを開いた。検索画面が出ると、『学校付近』『マンション』と言うキーワードを入れ、検索した。
すると、『マンション一覧』と言うサイトが出てきたので、それをクリックした。様々なマンションが移る中、美智子はお目当てのマンションを見つけた。
それはコーポ・タケナカと言う冗談のようで冗談じゃない最低なネーミングのマンションが出てきたが、外見は綺麗だった。8畳のリビング、6畳の個室が二部屋、エアコン完備と言う素晴らしい部屋があった。305号室が開いており、家賃も2万5千円とお手ごろだった(美智子には大金だが)。
そして何より、美智子が通う学校のすぐ近くだった。家賃約3万は痛いが、1000円以上を毎日失うよりはマシかもしれなかった。なぜなら通勤は自腹だからだ。そして何より、毎日通勤するのは肉体的にも精神的にもきつかった。あえて言うなら1人暮らししたいと思っていた。
早速これを印刷し、父の帰りを待った。これがまた遅かった。
結局父が帰ってきたのは、7時ごろだった。美智子は、一晩中父を説得し、1人暮らしの承諾を得た。。理由としては。父は仕事の関係でしばらく留守にする。学校が近いほうが家賃はかかるが安心できるからだ。後はマンションの視察だけだった。
翌日は土曜日だった。
日曜の朝、美智子はマンションに向かった。無論、制服で。
「305号室、ここだ」
震える手で、玄関を開けた。
ガチャン
「わーーーーー」
そこは思ったより綺麗で拾い部屋だった。
「よーし、早速探検探検♪」
まずはキッチン。
「わーい、システムキッチン!」
次はお風呂
「お風呂広いぞーー」
後はインターネット通りの情報だった。
今日からここが私のスペースか、まあ多少は不安はあるけど、孫悟空風に言うと、オラワクワクすんぞ。
すると、誰かがドアを開けてきた。
美智子は見てみる。
そこには、男子が居た。容姿は端整だった。背が高く、体が細かった。ショートヘアーで、顔は恐ろしいくらい大人びている。よく言えば、男らしいイケメン、悪く言えば年寄り老けている。
「「誰?」」2人は思わずはもる。
「おい、何でここに居る?」
「いえ、あなたこそ」
「俺は今日からここに住むんだ」
「私だって契約したよ?」
「嘘付け、お前間違えてるだろ?」
「間違えてないわよ、私は305号室」
「え?お、俺も」
2人は困り果てた。
「俺、不動産屋に電話する」
「あ、私携帯持ってるよ」
携帯電話を渡し、男が電話を掛けるが、その音声は美智子にも聞こえた。
『この電話番号は現在使われておりません』
「どーいうことだこりゃーーーー!」
男は怒鳴り込む。
「こうなったら、直接言って来ようぜ、あんたも!」
「は、はい!」
だが困ったことに、不動産屋のシャッターは閉まっており、張り紙があった。
“都合により、閉店させて頂きますby水戸不動産”
2人は唖然とした。そして今度は、大家の部屋に向かった。大家は小柄の老婆だった。とても愛想が良さそうで、何より親切だった。2人にお茶を出し、話を聞き、驚いた。
「えぇ、水戸さんが?うちは何も聞いてませんけどね」
「あ、あの、どうも二重契約らしく、困ってるんです」
「そりゃ災難やな、ま、うちは家賃16万払えばいいけど」
2人は絶句した。
「「じゅ、16万!!」」
「ちょっとまたー!」
「契約だと2万5千だと!」
「あれだけの物件が2万なわけないでしょうに、まあ、その」
「くそー、水戸社長、告訴してやる!」
美智子は頭を抱えた。16万円はあまりにも痛々しい数字だった。
「まあ、2人が一緒に住むなら、家賃を5、6万まで下げてもいいけど……」
「「へっ?」」
「え、2人が一緒に住むのには色々と問題があるでしょうに、だから、家賃下げてわびてあげる。うち、お金には困ってないし」
「「お、お願いします」」
2人は唖然としながら、新たな家に向かった。美智子は考える。もし、母が居たら、絶対に怒って連れ帰るだろうな。母は未成年同居反対派だったから。
2人は散々悩んだ末、同居することを決定する。理由は2人で払えば安くなるからだ。美智子には別の理由があった。父は毎月15万円は送ってくれるそうだ。そこで、バイトで更にお金を稼ぎ、家賃を払えば、かなりの利益になる。
こうして、高校男女の同居生活が始まった。
―土曜日―
同居生活初日の朝は不安だった。不安が的中し、問題が発生した。それは美智子が間違えて男の牛乳プリンを食べてしまい、口論になった。そこで、美智子はプリンを買いに、駅に向かうことにした。
「たく、あの女」
男は悪態つきながら、TVをつけた。
『続いて、通り魔事件の続報です。被害者は主に若い女性ですが、最近は高校生にも被害が及んでおり、犯人は今だ捕まっておらず――』
美智子は不機嫌にエレベーターに入った。
「まったく、たかだかプリンであんなに怒んなくても!そりゃ、勝手に食べた私も悪いけど、見かけによらず幼稚なんだから!」
エレベーターが開くと、美智子はびっくりした。そこには、疲れていたあの同居人が居た。
「何してるの?」
「牛乳プリン、買いに行こうと思って」
「もしかして、私が心配なの?」
「な、なわけあるか!可愛くない女」
そう言って、男はいった。「一緒に行くぞ」
美智子は思わず笑みを浮かべた。「馬鹿な男」
2人は駅のコンビニで買い物をしていた。
「自己紹介まだだったな、俺は首都高1年の桜井健一」
「え?私も首都高女子の高橋美智子だけど?」
「すると、同じ学校か」
「じゃ、朝はお互い無事を確認できるわね」
「ま、そうだな」
「あ!」
美智子は新製品のおやつを見つけた。
「新製品♪新製品♪」
「おまえ、新製品好きなのか?」
「だって、食べなきゃわかんないじゃん。確かにはずれも歩けど、あたりもあるよ」
「そうか」
「ね、イチゴ牛乳プリン知ってる?」
「ワット?
「イチゴ牛乳プリン。おいしいって評判なの。でも、あまり売られてないし、大人気商品だから、すぐに完売。貴重なのよ」
「そうか、食ってみたいな」
2人はレジで会計を済ませ、帰ろうとした瞬間、トラブルと出会ってしまった。
「2人とも、何してるんですか?」
振り返れば、社会教師の橘椿が両手に買い物袋を持って立っていた。
「「た、橘先生?!」」
「こんな夜中に出かけるのは危ないし怪しいですよ、それに男女ペアなんてますます怪しい」
「い、いえ、これには深いわけが……」
「俺が悪いんです。俺が、たまたま通りかかったこの子におごってやるって話しかけたんで」
橘は、怪しそうに2人を見た。
「まあ、今後はこんなことないように」
2人は安心した。
すると、橘は微笑んだ。「けど、デートに向いてるスポットなら知ってますよ」
「「デートじゃありません!!」」
橘は笑った。
「冗談ですよ、まあ、帰り道は気をつけて」
2人ははいと返事し、返ろうとした。だが、どこまで歩いても橘はついてきた。
「先生、何で着いてきてるの?」
「さ、さあ、俺達が怪しいのか?いいか?1、2、3で走るぞ。1、2、3!」
2人は走り、遠回りの道でマンションに帰った。
「ふ~、振り切れたな」
「ね、あれ」
見れば、橘が2人の部屋の隣の部屋のドアに手を掛けていた。
「橘先生!」
「あ、お二人さん」
「先生の家って……」
「コーポ・タケナカの304号室だけど?」
2人は唖然した。まさか、お隣さんが自分の学校の教師だなんて、夢にも思わなかった。
「もしかして、2人とも」
「「305号室です」」
「えっ?2人とも、つまり同居?」
2人はしまったと口を塞いだが、遅かった。だが、橘の顔は至って温和だった。
「可愛いわね、トラブルがあったらいつでも呼んでね」
そう言って自分の部屋に入った。2人は顔を見合わせた。
「これって、まずいかな?」
「いや、橘先生は優しそうだから、きっと大丈夫。大丈夫」