軍事会議
――日本米軍総司令部――
会議室には大勢の幹部が集結していた。その中に、アネット・レナーの姿があった。彼女は在日米陸軍医療部隊隊長で階級は少佐。茶髪にポニーテールで纏めた長い髪の毛と青い目が特徴で、愛想が非常に良く、スタイルも良かった。幹部の中でも人目置かれている。
そしてためにためた感情を爆発させる。
「医療部としては到底理解できません!いくら学校を建てたとはいえ、未成年への対応基準が無く衛生面でも問題があるし、ウイルスの正体も不明です」
すると、別の将校が言う。
「ウイルスは異種間で感染しない、そうだろ?」
「はい」
「それに空気感染もせず、最後の感染者は2年前に死んでいる」
「ですが、絶対安全を宣言するのに3年と言うのは短すぎます」
「少佐」
掠れた声が響いた。そこには、逞しい体つきの大男、マイケル・ストーン将軍が立っていた。彼の存在感は格別だった。アネットにとっては苦手な人物だ。全てを見透かしている青い目が恐ろしげでたまらなかった。
「何を恐れてる?」
アネットはためらわずに言う。「再発です」
「再発はありえない」
「でも、もししたら?」
ストーンは躊躇わずに言う。
「黙示録計画を発動するまでだ」
それはアネットの嫌いな作戦名だった。
「アネット少佐、妹が日本に入国し、心配する気持ちは良く分かる。だが、感染者は間違いなく全員死んだんだ。再発はありえない」
「妹は……」
「関係ある。君はまだ若い。感情を制御できないで居る。働きすぎだ、休息しろ。お前はこの最近ろくに寝ずに研究していると聞いている。そんな焦る必要は無い」
ストーンの声が、少し和らぐ。
「もう再発はない」
アネットはただ頷く。
会議が終わり、アネットは自動販売機でコーヒーを買い、それをゆっくりと口に流し込み、ベンチに座る。
すると、誰かが隣に座った。
それは金髪の男、ジョン・ゴードンだった。彼の階級は大佐で、本来なら彼が医療部隊隊長に就任すべきだったが、責任能力が欠けているとストーンが言ったため、副隊長に任命された。
「大佐殿」
「おいおい、会議以外は君が隊長だ。私が敬語を使えべきだ」
「はい、そうですね」
「どうした、疲れた顔をして?」
「いえ、ただ、どうしても上層部の判断が納得いかなくて」
「3年で日本を開放、感染の恐れなし、か。確かに僕もそれには納得いかないな。でも、僕達レベルの将校がどうこう言っても、お堅いストーン将軍と国連は決定を変えないさ」
アネットはため息つく。
「妹さんも入国したってな」
「はい」
「心配なのは分かる。でも心配しすぎると、君は倒れてしまう。ただでさえ忙しいのに」
「ゴードン大佐……」
「ま、少しはリラックスしろ。少しは妹の面倒を見てやれ」
ゴードンは立ち上がり、アネットの肩を軽く叩くと、立ち去ろうとした。
「ドン・ネビル中佐は?」
「今は居ない。彼も酔いつぶれたらしい」
ゴードンは立ち去った。
アネットは自室に戻り、パソコンが置いてある机に座った。そこには、自分の妹の写真があった。
“少しは妹の面倒を見てやれ”
ゴードンの言葉を思い出す。
アネットは腕を組んだ。彼の言うとおりだ。アネットは仕事に専念しすぎて妹の存在を忘れかけていた。唯一の家族。アネットには妹を優しくしてやれなかった。ずっと冷たくしていた。それでも妹は自分を愛してくれた。
「妹の面倒・・・か」アネットは呟く。
「言われなくても、見てやるつもりさ、ゴードン大佐」
“コード・アポカリプス”、ふと、ストーンが言った作戦名を思い出す。
アネットは、首都高の視察をしに訪れた。
そこでは、生徒が一生懸命に勉強に励んでいた。
お昼の時間、アネットは食堂でカレーライスを頼み、それを食べていると、後ろから誰かに睨まれた気がした。
振り向くと、そこには黒人の米兵――ドン・ネビル中佐が居た。
「中佐」
「アネット少佐、連絡に出なかったのはなぜだ?」
「いえ、視察のために通信機は全部置いていきました」
「17:00に医療センターに来い」
ネビルはそう言って立ち去る。