増大
青島御子は、真理子を連れて1階に行こうと思いつく。
今暴徒が存在するのは2階以上の階に限っており、1階のは暴徒が発生せず、なおかつ大勢の生徒がいる。生存率はぐっと上がる。
「ミーコ?まゆりんたちはどこへ行くのです?」
「1階だ。2階よりはずっとマシだ」
そう言って、青島は木刀の血を拭き取ろうと思った。
その瞬間だった。
突然何かが跳びかかり、青島とそれは一緒に倒れこむ。
木刀で反撃しようと思ったが、襲撃されたせいでどこかに消えていた。青島を襲った血まみれの生徒は、青島を持ち上げ、壁に叩きつけた。
「うぐぅ!」
呻き声を漏らす。
男子は掴みかかる。
剣道部でかなりの実力者である青島も素手では男子の鍛えられた肉体の前では非力に等しい。
男が噛みつこうと、むき出しの歯を近づける。どんなに抵抗しても、じょじょに距離が迫っている。青島は死を覚悟したが。
死神は現れなかった。突然男が手を放した。何だろう?
見れば、男の右脚にドライバーが突き刺さっていた。真理子が落ちていたドライバーを突き刺したのだ。
チャンス!青島は男の首に紐を巻き、首を折った。男は動かなくなる。
「ありがとう……助かったよ」
しかし真理子は呆然としている。仕方ない。人殺しを目撃したのだからだ。
「仕方なかったのだ、こっちが殺されかけたんだ……」
「うん、わかってる」
木刀を拾い、真理子の背中を撫でる。
「さぁ行こう」
「うん」
2人は進む。
――グランド――
ジョン・ゴードン大佐は集まった兵士の前に立ち、状況を説明した。
「今回の封鎖対象である学校内には最高機密のウイルスが蔓延しているんだ」
誰かが質問する。
「どんなウイルスですか?」
「空気感染ではなく、接触感染でのみ感染が成立する。霊長類にのみ感染し、異種への感染は見られていない。つまり、鳥が伝っての感染はない」
「症状は?」
「発熱、咳、鼻水や痺れが初期の症状。症状は悪化し、やがては幻視症状、脱水症状、激痛、吐き気、興奮、一時的な心肺停止、そして――――」
「そして?」
「狂暴化」
米兵たちが動揺する。無理もない。このウイルスの存在は将校レベルの人物やデルタフォースなどの特殊部隊にしか知られてない。再発はありえないと思われていたのだ。
そう、日本を滅ぼしたのはこのウイルスだ。
「感染者には共通の特徴がある。虹彩の変色、浮き上がる血管、腕力や脚力の向上、知能低下、異常な殺意、食欲などだ」
「感染者と非感染者の見分け方は?」
「赤眼がいたら感染者だ」
ゴードンは要点を言うことにした。
「今作戦は専門チームが来るまで、我々現地の兵士が感染者を学校内に留めておく必要がある。つまり、発砲許可も出ている」
兵士たちは動揺する。大人を撃ち殺すのは慣れていそうだが、何でも今回は子供も含まれているが、任務中に私情は禁物。
だが、ゴードンはアネットの無事を祈った。
数十分前
アネットはゴードンに案内され、近くの建物の地下室に案内された。そして、地下室にある扉を開けると、そこは下水道だった。
「学校内には下水道とを繋ぐ入口が存在するんだ」
「つまり、この下水道を進めば、学校に入れる?」
「そうだ、時間がたつにつれ、君の妹の生存率も下がる。君は妹を見つけたら、下水道を利用し、なるべく学校から遠ざかるんだ」
アネットは肩を竦める。
「なぜ教えるの?」
「君に惚れてるんだ」
アネットは笑う。
「嘘ばっか」
「さあ、行け、成功を祈る。それと」
そう言って、ショットガン/M3を渡す。
「室内戦にはショットガンが持って来いだ」
「サブマシンガンではなく?」
「室内では近距離戦闘が多い。サブマシンガンより、ショットガンの方が効率が良い」
「色々ありがとう。借りは返すわ」
「ウイスキーでもおごってくれ」
「行ってくるわ」
「健闘祈る」
アネットは下水道を進む。
学校を目指して。
桜井は1人で玄関に偵察に来た。やはり大勢の生徒がいまだに玄関で米兵と抗議していた。
「まったく、無駄だってのに」
だが、この光景も懐かしいものへと変貌することになる。
すると、1人の男子生徒が倒れた。
「ああ、たいへん兄さん!」倒れた生徒の妹が膝をつき、ボタンをはずしてシャツを脱がせる。
「息が止まってるわ心臓、心臓が弱いのよ」
すると、外の米兵が慌ただしくなる。桜井はいやな予感がした。誰も気づいていないが、この倒れた男の血管が浮き出てきた。
妹は兄に人工呼吸を始めた。これは愚かな行為だ。もし、兄が何かの感染症に感染しているなら、今ので妹にも感染した疑いが出てきたというわけだ。
『その生徒から離れて!』
外の拡声器を持った米兵が呼びかけを始めた。桜井は嫌な予感をし、すぐに妹を引き離そうとしたが、妹は離れようとしない。
すると、桜井は近くの男子に目で助けを求めた。その生徒は了解し、2人で引き離しを始めた。ほかの生徒は倒れた生徒から離れる。
その時、倒れた生徒が目を開く。どちらの目も赤く変わっている。
これではまるで、ゾンビだった。
それを証明するかのように、男子は引き離しを手伝っていた男子の足に噛みついた。
大勢の生徒が悲鳴を上げる。噛まれた生徒は絶叫を上げる。
「兄さんやめて!」
妹は桜井を振り払い、噛みついている兄の頭を抱えた。
「お願い!兄さんやめて!」
すると、兄は噛みついている足を放し、妹を見つめた。
「兄さん、私よ」
兄は妹の頬を触った。まるで、面会に来た家族の頬を久しぶりに撫でるかのように。
だが、兄は妹の顔を両手で掴み、奇声を発しながら妹の顔に噛みついた。妹は絶叫を上げる。
外にいた米兵の1人が無線機をで英語で何かを言う。米兵たちも慌てていた。大勢の生徒が兄から遠ざかろうと、詰めていた。
兄は妹を放すと、今度は桜井を狙った。
こいつは人間じゃない!ゾンビだ!ゾンビなんだ!
桜井はそう言い聞かせ、金属バットを握りしめる。兄は奇声を発しながら、桜井に襲い掛かった。桜井はその兄の頭に1発バットで殴り、倒れたところをもう1発殴る。
兄は痙攣を起こしたかのように、震え、そして動かなくなる。
大勢の生徒が唖然とし、何人かは吐いた。
すると、大勢の米兵が整列し、玄関に向かって突撃銃を構え、そして日本語で言う。
『今すぐ噛まれた人間を隔離し、自分たちの教室に待機してください』
大勢の生徒が罵った。
すると、米兵たちは銃口を上に向け、銃撃した。威嚇射撃だ。それだけで十分だ。生徒たちは悲鳴をあげ、階段を上がって教室に戻っていく。
桜井は、噛まれた妹と男子生徒を担ぎ、保健室に行く。
「橘先生!負傷者です!噛まれたんです!」
「いつ?」
「ついさっき」
すると、橘は噛まれた2人をガムテープで縛る。
「何するんですか?」
「理由は後で説明するわ、とりあえず全員保健室から出て」
「でも……」
「早く!」
全員、保健室から出る。
まったく、いったい何が起きてるんだ?
その後、教師たちは学校内の暴徒を発見しては、拘束し、保健室に閉じ込めた。生徒たちは自分たちの教室で待機し、教師が現れるのをずっと待った。
ここでも、美智子の姿はなかった。
橘が現れ、生徒たちを纏める。
しかし、桜井には聞きたいことがあった。
「先生、いったい学校に何が起きてるんですか?」
すると橘は、いつも見せる明るい笑顔ではなく、真剣な顔をした。
「何もかも酷似しているのよ、3年前に」
「話してください、3年前のことを――――」
「ええ、話すわ」
橘は口を開く。




