帰国
黙示録は、『新約聖書』の最後に配置された書であり、『新約聖書』の中で唯一預言書的性格を持つ書である。
『ヨハネの黙示録』は、単に『黙示録』あるいは『ヨハネによる黙示録』、『神学者聖イオアンの黙示録』、『使徒聖ヨハネ黙示録』ともいわれ、プロテスタント福音派では『イエス・キリストの黙示』と呼ばれることもある。現代訳聖書では『ヨハネが受けたキリストの啓示』である。
美智子が通っているのは、「首都公立高等学校」という公立の普通高校だった。
首都公立高等学校――通称「首都高」は第二新東京都の中心にあるエリート学校で、恐らく以前の日本なら、成績がオール5でないと受験できなかったであろう学校だ。
しかし、法律が代わり、高3までは義務教育を受けることになってしまった。
考えれば、日本に入るのも長い道のりだった。
美智子は飛行機の中で退屈な時間を長い間過ごしていた。ついに目的地であった日本の空港について、帰ったぞーという気分になるのもつかの間、今度は検査を受けた。
その検査の待ち時間がこれまた非常に長いため、美智子は帰国してすぐに後悔し始めた。それに警備を担当している米兵達が完全武装で無表情なため、何をされるか分からない美智子は、良い用の無い緊張感を感じていた。
ついに自分の番が来たとき、美智子は喜んだ。が、検査時間がこれまた長かったため、すぐに後悔し始めた。
しかし、検査をする医者―いや兵士の女性は非常に愛想が良かった。それに美人だった。ごつい無愛想な兵士に検査されるよりも100億倍マシであった。
最初は血液検査だったが、美智子は生まれつき注射が大の苦手である。針を見ただけで背筋に寒気を感じるほどだ。
「ちょっとチクッとするよ」と検査をする女性兵士――アネット・レナーはそう言ってくれたが、美智子はその言葉が大嫌いだった。
どうせ痛いのは分かるんだから、チクッとではなく痛みを感じるよと言って欲しいものだ。
そう思いながら、血液を採取すると、今度は目の検査をされた。眼科病院で眼鏡か何かを掛けたい際に使われるあの装置とまったく同じ外見をしている装置で目を検査された。
そして様々な知らない検査をされ、診断表を受け取った美智子は目を通した。
“検査結果
悪質な病気:なし
虹彩に異常:なし
血液中に潜むウイルス等:なし
精神状態:安定
入国許可:可能”
アネットは言ってくれた。
「あなたは深刻な病気や感染症も無いし、どちらかと言うといたって健康的。衛生面にも問題なさそうだし、入国は出来るでしょう。手続きはしておくから、お帰りなさい」
“お帰りなさい”。それは3年ぶりに聞いた。
そう、3年間日本にこれなかったのには訳があった。
美智子はモノレールに乗り、新東京都に向かった。モノレールで首都に向かう。不思議な感覚だった。女性の米兵が日本語で大勢の乗客に話していた。
『我々は今、絶対安全地グリーンゾーンに向かっています。そこには旧東京に無かった高層マンションやショッピングセンターがあなた達を待っています。完全武装した米軍が街を守り、治安を保たせます。ライフルを構えた姿はいささか恐ろしげですが、皆様には危害を加えません。それに、楽しいサプライズが待っています。買い物、映画、銭湯、レストラン、それにセクシーパブも』
男性乗客達が興奮したので、美智子は下品だと呟いた。
『もうすぐ終点です。では、楽しい新日本生活を』
美智子は外を見た。駅で自分の父、高橋孝一が待っていたので美智子は非常に喜んだ。
3年ぶりの父との再会だった。しかし、母は居なかった。
――なぜだろう?
美智子はドアが開くと、すぐに父親の元に向かい、抱きついた。
「お父さん!」
「美智子!」
2人は強く抱き合った。感動の再開だった。
孝一は美智子を連れ、駅を出て広場を歩き、高層ビルに案内した。
「パパは医療センターの責任者なんだ。ほら、見て」
孝一は美智子にカードを見せる。
「トリプルA、どこの施設にも入れるんだ」
美智子は微笑んだ。父の孝一は責任感が強く、実行力がある。そんな父が責任者なのが、誇らしげに感じた。
美智子は高層ビルの最上階の部屋に入った。そこは難民キャンプよりも遥かに良い、まるで高級ホテルの様な部屋が待っていた。大きな窓から、まるで横浜マリンタワーの展望室から見たような光景が広まっていた。つまり怖い。
「どうだい?」と孝一が聞いてきたので、美智子は返答に困った。怖いとはいえない。
「すごいよ、お父さん」と苦笑いを見せる。
「今から一週間後にお前は首都高に通うんだ。だから、準備しておけよ」
そして美智子は首都高に通い始めた。