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18/22

とりあえず、保健室へ

 アリアは病院で診断を受けていたため学校には遅れた。

「風邪ですね、休めば元気になります」

 そう言われ、玄関ロビーで会計を済ませようと椅子に座った。周りの男の視線が気になったが、無視しようと心がけた。

 すると、テレビの音声に気づいた。

『………高等学校がアメリカ軍のよって封鎖されました。現場に中継が繋がりました』

 思わず画面を見る。字幕には、高校の名前があった。自分の勤めている学校だ。


 一輝と美由紀と右足首を捻挫した彩を背負った橘な、階段を上がって、2階についた。

 玄関で大勢の生徒が揉め合っていたが、今は保健室に用がある3人は、そのまま渡り廊下に向かおうと思った。

 だが、渡り廊下の近くに差し掛かったころ、1人の同級生がフラフラと近寄って来た。全身血塗れだった。

「大丈夫か?」 

 そう言って、駆け寄ろうと思った。

「一輝君、駄目!」と橘の警告で足がすくんだ。

「どうしたんです?」

 その時だった。その同級生が奇声を発して一輝に襲い掛かって来た。一輝は同級生と組み合いながら、倒れこんだ。

「よせ!離れろ!」

 そう言っても、同級生は噛みつきかかって来た。

「戦って!一輝君!戦うのよ!」

 一輝は同級生の首を掴んで、そのまま立ち上がった。そして、鼻面に一発お見舞いした。同級生の鼻が砕けたが、それでも襲い掛かって来た。

 一輝は近くの鉄製のバケツを持って、思いっきり殴った。バケツが凹み、同級生は倒れこんだ。恐らく気絶程度だ。

「先生、早く行きましょう」

「ええ」

 そう言って、3人は渡り廊下を渡り、階段を下って保健室にたどり着いた。

 保健室には誰もいなかった。橘は彩をベッドに寝かせ、一輝は保健室のドアを閉め、鍵を掛け、掃除用具が入ったロッカーをドアの前に移動させ、障害物にした。

 一輝は彩のそばに座る美由紀の隣に座った。

「どうですか、先生?」

「捻挫ね」

 厄介だった。捻挫治療として関節の支持性が回復するまで、すなわち炎症症状がおさまり、損傷した組織が十分回復し、関節補強の為の筋力がつくまでの間、包帯、絆創膏やテーピングで固定し、関節の運動を制限することが必要である。

 治療に問題はないが、問題なのは走れないことだ。ご丁寧にも、保健室の出入り口は溶接されていた。つまり、保健室から外には出られない。

 非常にまずい状況だ。

「大丈夫か、花形?」

「ええ、私は大丈夫?」

「足立は?」

「大丈夫、少し吐き気が感じるだけ……」

「仕方ないわよ、ひとは慣れてない不愉快なことを目撃すると吐き気を感じるからね」と橘は付け足した。

「先生、その、足立は走れるんですか?」

「たぶん、無理」

 それにしても、あのいかれた連中は何なんだろうか?


 美智子たちは、あのゾンビと出くわした部屋に戻ろうと、廊下を突き進んだ。

 美智子は、物陰から廊下を見た。丁度、廊下で石井と呼ばれたゾンビが、安田と呼ばれた死体を食べていた。

 美智子は観察を続けた。やがて、石井は安田の死体を引きずって、どこかに消えた。

「今よ」

 全員、部屋に戻り、ドアを閉めた。そして、武器の回収を行った。

 坂口が、粉薬の入った袋をグエンに渡し、グエンは粉を鼻で吸った。

「それ、何?」

「コカインだ、使うか?」

「……いいです……」

 岡田以外は全員コカインを吸った。

「あなたは吸わないの?」

「ああ?ああ…吸わない、吸いたくない」

 美智子は、岡田が根はいい人物ではないかと直感した。

「どうして?」

「いや、気にするな」

 気にするよ。しかし、コカインを吸う他の連中よりは、ずっと当てになる。岡田はクローゼットから何かを取り出した。それは映画でよく見る短機関銃(H&K MP5K)だった。それに、日本の警察が使う回転式拳銃も。

 拳銃を美智子に渡した。

「これはもっとけ、使うことがないといいが、念のためだ」

「あ、ありがとう」

 使う機会がないと良いのだが。


 健一は、ローズ、岡田太郎、橋本とともに、玄関で待機していた。

『皆様の安全のため、自分たちの教室で待機してください』

 兵士は片言の日本語でずっと同じことを繰り返していた。橋本は心配そうな顔で健一を見た。

「どうする?桜井君」

「こりゃ、言われたとおり教室で待機するのが妥当だな」

「でも、家に帰りたい」

『無断で外出したものは射殺します』

「仕方ないさ、言われたとおりにしないとまずいかもしれん。連中は銃を持ってる。あれは本気だ」

 すると、ローズがあっという顔をした。

「どうした?」

「やっちゃった、携帯電話教室に置いてきちゃった」

「仕方ないな、ほら、行くぞ」

 そう言って、4人は2階の自分の教室に入った。中は荒れていた。

「えっと、あたしの携帯は……」

 ローズは鞄から自分の携帯電話を探し始めた。

 だが、廊下から物音がした。

「ローズ、姿勢を低くしてろ」

「え?」

「岡田、橋本、準備しろ」

「「何の?」」

「襲われても大丈夫な準備だ」

 それが合図だったかのように、血塗れのクラスメートが、突然現れ、奇声を発しながら走って来た。

「ちょ、やめろ!」

 岡田が叫ぶが、クラスメートは岡田に跳びかかり、首に噛みつき、まるで、ネズミに噛みつき首をへし折ろうと頭を回す犬のように、岡田を噛みつきながら頭を回していた。

「くそ!太郎!」

 健一は、後ろからクラスメートを拘束した。クラスメートは暴れている。

「やめろ!動くな!」

 クラスメートは奇声を発しながら、暴れていた。だが、突然止まった。

 ローズが、普通の校舎内掃除用床ホウキの先端をはずしたモップを、クラスメートの右目に突き刺していた。恐らく、そのまま貫通し、脳にまで達したのだ。

「やった……あたし、やっちゃった……あたしが……」

 そう、呪われたように何度も繰り返していた。

「落ち着け、ローズ!落ち着け!」

 ローズは正気を取り戻した。

 同時に吐いた。橋本は泣きじゃくっていた。

「何で…何で襲ってくるんだ?こいつ、オフ会の仲間だったのに、気があったのに…」

「お前も落ち着くんだ!正当防衛だ!」

 そういう自分に恐れをなした自分が居た。確かに正当防衛という理屈は通るが、目の前で殺人が起きたのに落ち着いていられる自分が恐ろしかった。

 だが、それどころではない。

「岡田!」

 真っ先、岡田に駆け寄った。

「大丈夫か、岡田!」

 かろうじて、息はあるようだ。

「たてるか?」

「駄目!動かさないで!出血が酷くなる!」

 確かに、首から勢い良く血が溢れ出ている。

「止血しないと………」

「保健室に何かあるはず、今は動かさないのが得策だから、何か首に巻いて寝てもらわないと…」

「雑巾持ってこい」

 言われたローズは、雑巾を持ってきた。岡田はそれを首の傷口に抑え、ガムテープで止めた。

「糞!早く何か取りにいかないと!」

「保健室なら、包帯とか止血剤とか何かあるはず……だよね?」

「ああ、そうだ、橋本、保健室言って、薬とか包帯とか持ってきてくれ!」

「了解!」

 橋本は敬礼し、保健室に向かった。

「ローズ、容体を見ててくれ」

「あなたは?」

「俺は何か武器になるものを探す」

「武器?」

「暴徒が校内中に発生したって放送してたろ?それが事実なら、対抗するために武器が必要だ。お前はあのモップを使え、俺は適当に探す」

「わかった」

 健一は、廊下に出て、何かないかと見渡した。近くに野球部の道具をしまう部屋があった。ドアには南京錠がかかっていた。

 健一は近くの消火器で南京錠を破壊し、中に入った。

 思ったとおり、中には金属バットや、ヘルメット、ボールなどがずらりと並んでいる。健一は金属バットを2本無断借用し、教室に戻った。

「容体は?」

「当たり前だけど、悪くなっていく一方」

「くそ!くそ!くそ!」

 すると、廊下から、足音がした。

「健一君!橘先生と美由紀を連れて来たよ!」

 橘は、真剣な顔で、岡田に駆け寄った。

「傷口は?」

「見ての通り首です、噛まれたんです」

「噛まれたの?」

「はい、そうですが?」

 橘は一息ついた。

「桜井君、こんなことも言うのもなんだけど、もし、もし彼が立ち上がったら、そのバットで殴れる?」

「え?」

「彼が発狂して危険な存在になったら、殴り殺せる?」

「必要なら?」

「わかった、止血剤と包帯を持ってきたから、止血したら保健室に運びましょう」

「ええ、そうしてください!」

 

 美智子たちは、廊下を慎重に進んだ。銃を持った男たちと一緒なら、ずっと安全だ。彼らが性欲さえ感じなければの話だが。

「ああ、くそ」

「どうしたんだ、坂口?」

「ずっと腕が痛いんだ、噛まれてね」

「そりゃ、ドンマイだな」

「ドンマイだよ、兄ちゃん」

 グエンと坂口は、血はつながってないが、兄弟のような関係だった。その理由は、誰も知らない。

「兄ちゃん、頭がいたい」

「頭痛薬が必要だな、保健室行くか?」

「でき……」

 突然坂口が血を吐きだした。全員が驚いた。

「兄ちゃん、熱い!」

「坂口!」

 坂口はさらに吐きだし、今度は血の涙を流した。

「くそ!全員坂口から離れろ!」と梶尾が叫ぶ。

「坂口!」

 坂口はグエンを見る。

 その両目は、真っ赤に染まっていた。

 全員が拳銃を坂口に向けた。その瞬間、グエンはすべてがスローモーションに見えた。それは一瞬だったが、さまざまな記憶が浮かんでくる。

 いつから――――坂口と仲良くなったかな?幼稚園のころ、女子のおままごとに嫌々一緒に遊んだころから? 一緒に小学校に入学し、自己紹介の時に一緒に笑いをとった時からか? 母親が死んだとき、悲しみで落ち込んでいた時、慰めてくれた時からか? 兄弟の盃(子供のビール)を交わした時からか? 偶然通り魔を殺した時、一緒に証拠隠滅をしてくれた時からか?

 結局、本当に友達――――幼馴染と呼べるのは坂口しかいなかった。

 その坂口が、今、グエンに牙を剥けている。

「坂口!!」

 グエンは、拳銃を構えた。

「撃て!グエン」と梶尾

「早くしろ!」と長田

「あいつはもう人間じゃない!」と志木

「いやぁーーーー!」と美智子

「くそ!これが現実か!」と岡田

 撃てなかった。

「できるわけないだろうがぁーーー!」

 グエンは、走ってくる坂口にそう叫んだ。


 現場に到着したアネット・レナーは、軍が用意してくれた特殊なテントの中で、1人、頭を抱えていた。妹が学校内にいる。

 ひどい運命だ、軍の封じ込め作戦で、妹が危険な存在と一緒に学校内にいる。

「辛いだろ?」

 頭を上げれば、ジョン・ゴードンが居た。

「ゴードン大佐」

「今はため口でいい、アネット少佐」

 アネットは、力なく頷いた。

「コーヒー、いるかい?それとも、今はカフェインよりアルコールが必要か?」

「仕事中にお酒はまずいですよ」

 ゴードンは笑った「相変わらず真面目だ」

「妹を助けたんだろ?」

「今日は軍人として来たんです、私情は禁物です」

「そう言うな、ほんとのこと言え。助けたいんだろ?」

 アネットは、弱弱しく頷く「ええ、ほんとは……でも無断で出ては、射殺されますし……」

「ばれたらな」

「え?」

「妹を救うチャンス欲しいか?」

「でも……」

「たった1人の妹を救うチャンスが欲しいか?」

「………」

「また、前みたいに見殺しにする気か?」

「はい、救いたいです」

「ならチャンスをやる。だが、これは危険な賭けだ。それでもいいのか?」

「はい!」

「なら、話を聞け」


 

 【それ】は、確実に近寄っている。自分を導く何かに。 


 

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