カルロス・ブーツとジル・ガブリエル
米陸軍特殊部隊デルタフォース所属の狙撃手カルロス・ブーツ1等軍曹は、建物の屋上から対物狙撃銃を構え、ライフルスコープで地上を監視していた。カルロスはスポーツ刈りの頭を掻き、にっと笑って上空を見る。そこには旅客機が着陸態勢に入るところだった。
「日本へようこそぉ」
すると、無線機から声が流れた。
『どうだカルロス、楽しんでるか?』
それは大親友の声だった。
「コリン、今まで一番最悪の戦闘だ」
すると、無線機から複数の笑い声がした。
「標的がいないんだ」
『標的がほしいか?』と別の声がし、『お前の手前マンション3階のトイレを見てみろ』
カルロスは言われたとおりスコープで除いてみる。そこには・・・・・・
『シラスがオナニーしてるぜ、ひゃはははは』
『ああ、あのシラス顔か、昨日も見たぜ』
『しっかり息子握ってやがる』
「気色悪」
『カルロス、お前接近戦得意だな?』
『デブの相手して来いよ』
『マンツーマンってな!』
『カルロス、あれはお前の親父か?』
「んな訳ねぇだろ!」
『そうだぜ、ハンサムのカルロスに失礼だぞ』
『すまんすまん』
『だったら弟だったり』
「うるせえ」
カルロスは再び対物狙撃銃で地上を覗いた。すると、マンションから少女が悲しそうな顔をして出てきた。学生か、セーラー服を着ていた。何か深刻な問題でも抱えているのか?そう思いながら、観察を続けようとしたとき、後ろから気配を感じた。
すぐに対物狙撃銃から突撃銃に持ち替えた。
「何だ、ジルか。びっくりさせるな……」
そこには同じく迷彩服を着た若い女性が居た。カルロスと違い、防弾ベストを着けておらず、上は黒いTシャツ姿だった。
日系のハーフブロンドの女性。実年齢はカルロスには分からなかったが、恐らく見た目からして20歳未満かもしれないが、スタイルはハリウッドのセクシー女優を連想する。髪も首ほどの長さしかないが、顔はまだ幼い、少女と言っても過言ではないほどだ。だが、戦闘能力は恐るべきものだ。射撃能力も格闘術もカルロスを遥かに越えており、感情を表に出さないため、相手が動揺しているかさえ把握できない。その上無口だ。非常に扱いづらい人物だ。
彼女の名はジル・ガブリエル。物凄い名前と同様、物凄い人物だ。
「危うく撃ち殺すところだった」
「カルロス・ブーツ1等軍曹殿」とジルは言ったので、カルロスは「俺のことは呼び捨てか先輩と呼べ、で、何だ?」と答えた。
「交代の時間です」
「そんな格好でか?防弾ベストくらいは着たらどうだ?」
「必要ありません」
「じゃ、煙草を1本吸うか?」
「いりません」
「真面目だな」
カルロスは対物狙撃銃を置いたまま、ジルを通り過ぎ、階段を下った。そして在日米軍兵の休息場所である“医療センター”に入り、ベンチに腰を下ろし、煙草の箱を取り出した。
すると
「センターでは禁煙だぞ」
と今度は男の声がした。見れば、そこには金髪の軍服青年が立っていた。
「ゴードン大佐」
「ジョンと呼んでくれ、ゴードンはあまり好きではない。その、ごついイメージがあるんでな」
医療部隊副隊長のジョン・ゴードン大佐は隣に座り、ため息をついた。
「1本どうです?」
「いや、私は……」
そう言って、太い巻き物を取り出した。
「葉巻ですか?」
「キューバ製だ。これはいいぞ」
そう言って、カルロスは煙草をライターで、ゴードンは葉巻をマッチで火をつけた。煙草を吸うと、何かがすっきりする。体が温かくなり、苛々がなくなる。近くの自動販売機で、コーヒーを買い、煙草の旨味を更に深めた。
「ジョン、ジルの様子はどうだった?」
「え?ジルって、ジル軍曹ですか?」
「そうだ」
ゴードンは非常に真剣そうな顔だった。
「別に、相変わらず無口ですが」
「何か変化はないか?こう、例えば、いつもより口数が多いとか、皮肉を言うようになったとか、何か不満を漏らすとか?」
「いえ、特にございませんでした」
「そうか……では、話を変えよう」
ゴードンは葉巻の香りを存分に楽しみ、火を消した。
「君はジルについてどのくらい知ってるか?」
「腕相撲大会で優勝したくらいしか」
「そうか、では彼女の相棒である君に話そう。彼女は――」
すると、ポニーテールの美人が遠くから叫んだ。
「ジョン大佐!日本入国希望者の身体検査です!至急検査室まで!」
「分かった、今行く!」
ゴードンは立ち上がり、手を振った。
「じゃ、彼女の話はまた今度だ」
そう言って駆け足で検査室に向かった。カルロスは、煙草を吸い尽くし、近くの灰皿に捨てると、医療センターの正面入り口に立ち、見張りに着いた。
そして、大都会である新東京を見渡す。日本は驚くべき復興を遂げた。つまり、復活したのは首都だけではない。北海道を除く全ての都道府県が復活を遂げていた。
カルロスは、ポケットから箱を取り出し、中にあるものを取り出す。指輪だ。ダイヤがついている指輪だ。
「とんだ任務になっちまったぜ、寸前だったのに」




