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吾輩、旅に出る

吾輩は魔王である。知力は低くとも魔王である。


龍脈に接続してから一週間程過ぎた。

【クローズド・サークル】によって、下位魔族であるイーヴィル・ゴートと、中位魔族であるパーンが一体ずつ産まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーー

名前:

種族: イーヴィル・ゴート

Lv:

HP: 270

MP: 180

STR: 145

DEF: 135

INT: 110

AGI: 65

ーーーーーーーーーーーーーーー


イーヴィル・ゴート。皮を剥がれた人型の山羊である。これと言って特殊な能力を持つわけでも、偏った性能を持つ訳でもない凡庸な下位魔族である。

しかしそのおかげか、比較的召喚に時間がかからぬ。イーヴィル・ゴートのみを召喚するのであれば、日に三体は召喚できるであろう。


ーーーーーーーーーーーーーーー

名前:

種族: パーン

Lv:

HP: 500

MP: 800

STR: 400

DEF: 150

INT: 850

AGI: 400

ーーーーーーーーーーーーーーー


パーン。頭部から後ろへ流れる様に生えた二本の角と鋭い爪を持ち、魅了や狂乱の付与といった呪いを得意とするインキュバスの一種である。

魔力と知力に偏った性能でありながら、その他の能力も全て、イーヴィル・ゴートを凌駕している。

しかし、その分召喚に時間がかかる。身体の構成に必要な魔力量が多いのだろう。パーン一体の召喚に一週間の大半を費やしてしまった。


中位魔族ですらこれ程の時間が掛かる。であれば上位ともなれば計り知れない時間が必要になるであろう。故に当分は後回しである。


あと、中位魔族にすら知力を超えられているのである。上位魔族の能力値など見とうない。





「すまぬな、毎度留守を任せて」

「お気になさらず、陛下。側近として当然の事です。」

「うむ、では迷宮(ダンジョン)の管理と改築、任せたぞ」

「は、お任せを」


吾輩はこれより一号と二号、そしてゴブリン共を引き連れて旅に出る。

旅と言ってもティノール連峰から出るつもりは無い。現状吾輩が把握しているのは迷宮の周囲のみであり、これはティノール連峰全体の二割にも届かぬ範囲である。


故に、ティノール連峰全域の掌握のついでに配下共のレベル上げを行うのが旅の目的である。一ヶ月はかからぬであろうし、連峰の反対側には魔王たる吾輩の配下に加わりたいと言う殊勝な魔物もあるやも知れぬ。気楽に行くとしよう。






「ごぉ・・・ぶぅう!!!」

「・・・【バインド】・・行キナサイ・・」


一号が脚を切り飛ばし、二号が魔法による拘束を施す。完全に動きが止まったところを、ゴブリン共が袋叩きにする。

流石に手慣れておるな。旅に出るまでの一週間で子ゴブ共は全員ホブゴブリンに進化しており、元々ホブゴブリンだった四ゴブもレベルが四十台に上がっている。


そして、一号と二号だ。

二度進化しているだけあり、レベルはなかなか上がらぬ。しかし、その分レベル上昇時の能力値上昇が大きい。

レベルは未だ二十にも届かぬが、二匹掛かりではあれば、イーヴィル・ゴートを撃ち倒す程の力がある。

次の進化は大分先であろう。だが今回の旅でレベルを大きく上げられれば、単体でも下位の魔族や竜種とも対等に戦えるであろう。


将来が楽しみである。





旅を始めて三日目、竜種が蔓延る山頂付近を避け、ティノール連峰の外周を回る様に探索を続けている。


「レベルの上がりが遅いな。やはり頭数の問題か・・・」

「ごぶぅぅ・・・」

「・・・二手ニ分カレマスカ・・・?」

「ふむ・・・、それも手で有るな・・・」


レベルが上がらぬ。一号や二号のみならともかく、ホブゴブリン共でさえティノールベアを一匹倒して一つレベルが上がるかどうかである。


レベルの上昇とは、殺害した相手の魂を取り込む事で起こる。そして魂はトドメを刺した者だけでなく、戦闘に加わった全員に配分される為、頭数が多ければ多いほど一人当たりの配分が少なくなる。

そうなれば当然、レベルの上昇も遅くなるであろう。


故に、二号の言う様に二手に分かれると言うのは悪くは無い、悪くは無いが。


「いや、今日はこのまま全員で行動する。二手に分かれるのは四匹が進化してからでも遅くは有るまい」

「こぶりゅりゅりゅりゅ」

「ごぶごぶりんりん」

「ああああわびゅ!」

「ゴブァ!?」


四ゴブはレベルが低い者でも四十五、今日一日かければ全ゴブ進化できるであろう。あえてリスクの大きい道を選ぶ必要はあるまい。


「そら、都合良く蜥蜴が出たぞ」


ブルーブラッドアイデクス。強さで言えばイーヴィル・ゴートに迫る、いやレベルを考慮すればそれ以上の強敵と言えよう。

だが、一号と二号が上手く立ち回れば大した脅威では無い。ゴブ共の良い糧となってくれよう。






一号が駆ける。

ブルーブラッドアイデクスは魔法と頑強さに特化した種族ではあるが、決して動きが鈍い訳では無い。主君である魔王を除けば、アイデクスの動きに付いて行けるのは自分だけであると一号は理解していた。


しかし、当たらない。


膂力と素早さは互角。しかしそれ以外の全てで劣っている。此方が一度攻撃を繰り出す間に、相手は三度打ち込んでくる上、相打ち覚悟で特攻を仕掛けようにも直剣以外の攻撃は分厚い鱗に阻まれる。それならばとフェイントを仕掛けるが、産まれて数週間のそれはイタズラに隙を晒すだけ。

だが、一号は引かない。自分は一人で戦っている訳では無いのだから。


「・・・【エレクトリカル】【マニュピレイト・アース】・・・」


二号が放った魔法は、一つ目で一号を狙っていた氷の槍を打ち砕き、二つ目で地面を操りアイデクスの身体を縛り上げる。


アイデクスも直ぐに反応し、自らも【マニュピレイト・アース】を発動。二号から地面の支配権を奪う為魔力戦を仕掛ける。

が、そこに一号が直剣を振り下ろす。


「ギィぃいいい!!!!!」


魔力戦に意識を割いていたアイデクスは一号の一振りを避けきれず、左腕を根本から切り落とされる。

しかし、ブルーブラッドアイデクスは元々上位竜種の血を引く魔物である。左腕を切り落とされた痛みに怯みはすれど戦意が削がれることはない。


直剣を振り抜き隙を晒した一号へ、残った右腕を叩き込む。

一号は受け身も取れずに吹き飛ばされた。これで当分は動けない。そう判断したアイデクスは二号との魔力戦に全意識を集中させる。


故に、ここ迄である。


アイデクスは気付かない。二号の更に後方で、戦いを眺める事しかできなかったホブゴブリン達が姿を消している事に。


そのホブゴブリン達が自らを殺し得る武器を持ち背後に回り込んでいる事に。


アイデクスは遂に、二号から地面の支配権を奪い取り逆に二号を締め上げる。後は近付いて頭を噛み砕くだけ。勝利を確信したアイデクスは一歩、脚を前に進める。



それが、最後の記憶だった。







「無事であるか一号ぉぉ!傷は浅いぞぉ!!」

「ご・・・ぶぅ・・・」


全然脅威であった。大した脅威であった。

余裕ぶって能力値を確認していなかったが、以前見た個体より大分強い個体だったらしい。


最後、ホブゴブリン共が背後から滅多刺しにしていなければ一号も二号も殺されていたであろう。

まさか竜種でもない魔物に二匹掛かりでも届かぬとは、大誤算である。


吾輩が一号に回復魔法を掛けながら一人反省会をしていると、土の束縛を振り解いたらしい二号が近付いてきた。


「・・・起キナサイ、一号。傷ハモウ癒エテイルデショウ・・・」

「ごぶ!」


一号がすく、と立ち上がる。

此奴・・・、魔王であり主人でもある吾輩を騙しておったのか・・・?


「・・・ソンナ愚カ者ノ事ヨリ、主ヨアチラヲ・・・」


吾輩が配下の反逆に絶望していると、二号がブルーブラッドアイデクスの遺骸を指さす。

そこには遺骸を囲み、各々の武器をやたらめったらに突き刺す蛮族共がおった。

貴様等は死体蹴りをせねば気が済まんのか・・・?


「ほぉ、今の一戦で進化したのか」


蛮族共の中に四匹、オーガが混じっている。

十中八九一号、二号と同時に生まれた個体だろう。

後、一、二匹は魔物を狩らねば進化に届かぬと思っておったが、どうやらあのブルーブラッドアイデクスはかなりの魂を溜め込んでいた様であるな。


「色々誤算はあったが、目標は達成した。まだ

日は出ておるが、今日はここまでで良いだろう。一号、二号、奴等に野営の準備をさせよ」

「ごぶぅ!」

「・・・カシコマリマシタ」



さて、奴等の名前を考えてやらねばな。

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