前世の記憶がうっすらあるから貧乏教会立て直す事にした
ゆるふわ異世界、ゆるふわ宗教観、ゆるふわ国家観。
女の子わちゃわちゃ話ですが最後に男女恋愛に関するナレーションオチがあります。苦手な人はご注意ください。
私、シオンは貧乏教会の修道女をしている。
ある日、雨漏りを直すために教会の屋根に上っていたら滑り落ちてしまった。大きなけがはなかったけれど、その衝撃で前世を少しだけ思い出した。
しかし全てが不鮮明で、うっすらふんわりボンヤリしている。ただ、いろいろな人の前に立つ仕事をしていたらしい。人を救ったり癒やすことをしていたような気がする。悪い感情を浴びせられることも多かったけど、これもおそらく使命…これこそが生きる道だと信じていた……と思う。
これはきっと今世でもその使命を行えという神のお導きだろう。
教会の責任者である神官様に相談すると私が嘘をついていないかの真偽審問を行ったのち「真実」と判断して話を聞いてくれた。
「でもねぇ、ウチお金ないよぉ…」
「できる事からやりましょう」
弱気な神官様を激詰めしてなんとか許可をもぎ取る。修道女として、神様がくれたチャンスは逃したくないのだ。
まず、うっすら思い出した記憶を頼りに足場を固める。収入減である護符やクッキーの販売を近隣のお店に卸す以外に自分たちで売るようにした。
修道女数名の手渡しで。
希望があれば購入者の手を握り簡単な『祈り』を捧げる。
高位の修道女が行う『祈り』は魔物を弱体化させたり、呪いを解いたり瘴気を消したりできるが、うちのような小さな教会で与えられるのは力の弱い『祈り』なので、ちょっと疲れが取れやすくなったり、半日くらい羽虫に刺されにくくなる程度の効果しかない。
最初はろくに売れなかったけれど、目の前で『祈り』を捧げてもらえると広がって冒険者や肉体労働者等の体を使う人々や小さな子供がよく来るようになった。「短時間でも虫除けになるなら嬉しいし」「朝の目覚めが良くなった」と好評だった。
次は時間を決めて修道女みんなでの『祈り』と聖歌発表を行う事にした。
教会の信者であっても、そうでなくても自由に見に来て良い『お試し浄化と説法会』である。
「本当に、本当にこれ聖歌の発表?」
私の書いた聖歌の楽譜と開催スケジュールを見て神官様が苦い顔をする。
「少し早い曲にするんです。おそらく、みんな忙しいので1曲ゆっくり聞いてられないのでしょう」
「いや、聖歌って身も心も落ち着かせて神様と向き合うためにゆっくり聞くものだと思うよ?」
「我々はそうでしょうけど、一般の皆様は他の仕事とかあるので」
「神様がなんていうか」
「大丈夫ですよ、日常の限られた時間の中でも向き合おうとする心をきっと認めてくださいます」
「物は言いようだねぇ」
神官様は少し不満げだったけれど、これが好評だった。
何せまるっと1曲聞くと15分有難い神様のお話をまとめた歌物語が10分ほどに収まる。それも全員で歌うのではなく修道女1人1人にパートを分け、合いの手のようにしたり一番盛り上がる部分は合唱にしたりと調整し、前後編の5分ずつにした。これによって「それくらいなら」と聞いていく人が増えたのだ。
またパート分けした事で全文を覚える事はできなくても
「修道女のアイリーア様が歌う大地創造神の部分は覚えた」
「ミシャ様の木々を作るセリフなら完璧だ」
といった形で、少しずつ記憶に残していく事に成功した。
ほとんど無かったお布施の金額が倍以上になった。……貧乏教会だから、大通りの一番大きな協会にくらべたらまだまだ少ないけどそれでも私たちは手ごたえを感じた。
次に経典の読み聞かせを行った。
聖歌と同じ要領で、パート分けをして、盛り上がる部分は歌にして聞かせる。歌劇風にするとただ読むよりも覚えやすいし馴染みやすいみたい。
作るの大変だったけど…。
そのために、販売品と聖歌発表で増えたお布施を使って吟遊詩人を一人雇った。神官様やほかの修道女たちは「生活か建物の修繕に」と願ったけれどなんとか説得をして投資。
これが大正解。
吟遊詩人には修道女たちが読み聞かせを行う最中、雷の話では木の板を割るバキ!バリ!といった音を、女神様が下りてくる時は清らかな曲を…といった風に話に合わせて音鳴らしてもらったり、劇の指導をしてもらった。
その結果、難しい話としてではなく臨場感のある物語として、感覚で子供から大人まで幅拾い層に経典の内容を知ってもらえるようになった。
因みに、吟遊詩人さんへの報酬はあまり多くないが、神官様の隣の部屋に住み込みで、劇と指導の時間以外は自由。1日1回の『祈り』と希望があれば質素な食事が朝夕に付く。
「宿取るより断然お得だし、もともと昼間は酒場で歌ってももうからないからね。ちょうど良かった」
と、人懐こい態度で受けてくれた。
この吟遊詩人さんがとてもいい人で、割れた窓の補修なんかも少し手伝ってくれるからだんだんと神官様が絆されている。
「吟遊詩人殿の為に、夕飯に少し良い肉を足せないものか」
なんて言い出す始末。
そんな事をしていると、だんだんと「教会の修道女」としてではなく
「中でも、エリシア様の『祈り』は特に効く」
「自分はライラ様の劇に心を打たれたよ」
といった風に個人を指名してくる信者が出てきた。
時には「うちの娘はお転婆で、勉強もさぼってばっかりだったのにアイリーア様にお勉強頑張りましょう!と言われてからは毎日勉強をするようになったわ」というお母様たちまで出てくる。そんな人たち向けに「アイリーアが祈りの言葉を刻んだ学習板」とか「ミシャが育てたハーブを使った安眠香」「エリシアの祈りで育った花の種」「ライラの絵姿、経典読み聞かせ『水神降臨』シーン」なんてものも作って売ってみた。
前世ではこういった物を身近に置いてもらう事で日々の信仰を促したり、多忙で教会にこれない時も微弱ながら加護を与えていた…ような記憶がある、多分。うっすらなので確証はないけど…。
「シオンさまー僕も大人になったらシオンさまみたいに背が高くなりたいな」
「わたしも!シオン様みたいに元気いっぱいの大人になりたい!」
私を指名してくれるのは主に小さな子供たちだった。私はうちの修道女中では一番背が高くて体力があるから、清らかさや賢さより健やかさの面で慕われている。
「好き嫌いしないでいっぱい食べて、昼はいっぱいお母様やお父様のお手伝いしたり遊んで、夜はいっぱい寝ると良いですよ」
「本当に?」
「ええ、私は子供のころからずっと教会の養護施設で育ちましたが、それでもこんなに元気な体になりましたから」
「シオンさますごーい! 屋根から落ちても元気だったんだよね?」
「シオン様みたいにおしりとおむねが大きくなったら私も屋根から落ちても平気かな?」
「それは関係ないから、目指さない方がいいと思いますよー……」
女の子の言葉に返事を濁す。私たちのやり取りを優しく見守っていた周囲の大人たちがそっと視線を外すのを肌で感じた。
私だけみんなとは違う慕われ方をしている気がするけど、これも神様の示した道だろう。私は信じていますから。
最近は、とにかく何かを作れば作るだけ売れた。お陰様で食事の質は良くなり、雨漏りは直った。
当然、吟遊詩人さんにお支払いできるお金が増え……とはならなかった。
「いや、最初の契約以上のはもらえないし。っていうか僕、君らと一緒にいるせいで夜の酒場でも仕事増えて大人気なんだよ。逆に宣伝料払わないといけないくらい」
良い人だ。彼が受け取らない分、神官様がさりげなく部屋の寝具や椅子のグレードを上げたり、お酒が好きな信者に彼が歌っている酒場を紹介しているらしい。ただお酒を飲むだけでなく、誰かの話や歌声を聴き、歌い終わったら帰る事で飲みすぎを防止していると言い張っていた。
本当かなぁ。
こんな事が続くと、他にも真似をする教会が増えてくる。
イイカンジの所もあれば、ちょっとビミョーだったり、なんだか勘違いして酌女や売春まがいの事をやらせて法に触れそうな所もあるらしい。
「どうするかねぇ、真似をするなと止めるべきか?」
「そうですねぇ……」
ヤバいことをやっている所は教会の本部や国にこっそり報告をするとして、健全に同じような事をしている教会に関しては判断が困る。
真似をするな!と言いたい気持ちも少しあるけれど、向こうも自分たちで聖歌の楽譜を作り直したり、販売品を考えているなら、それは私が文句を言う事じゃない。むしろ、こちらが思いつかないような案や学びたい事も多いだろう。
そう考えて、前世の記憶をと巡らせる。
「…こ、こら…ん…?」
「なんだって?」
「なんか、そういう言葉あった記憶が…こ…こら…交礼募企画…?」
引き出した記憶の中に、やはり同様に別の教会(多分)でも同じような舞台を行っていて、信者が分散される事象があった。
分散自体は悪い事ではない。
全ての信者たちを小さな教会と少ない人手で見切れるわけじゃないんだから、お互いを食い合わない程度にほどほどに分かれた方がいいのだ。
ただ、その中でもとても似ている教会や修道女の催し物が2つ以上あったら。もし、そこが敵対するのではなく、協力をしたならば……。
同じ神を信仰する同志、似た分野が得意な教会同士で交流と礼拝を行い、信者を一緒に募る。
「これが交礼募です。多分」
「本当かなぁ…」
半信半疑の神官様の尻を叩き、国の真反対にある似たような歌劇をはじめた教会に手紙を書かせた。
そして、いろいろと話し合った末、近々の季節祭りで一緒に大きな舞台で合唱を行う約束を果たした。
「そちらで歌っている『神と安らぎの光』のパート分けが素晴らしいですわ」
「それでしたら、そちらの皆様とこちらのメンバーでお互いの曲のパート交換をしませんか? わたくし、皆様の『夜明けは来たる』のアレンジがとても大好きなんです」
「よろしいのですか!」
「祭りの際に販売する物品ですが、当教会のミシャはハーブの栽培と調合が得意なんです。そちらのテリーザ様もたしか…」
「えぇ。ただ彼女は気付けのハーブ専門で、癒しのミシャ様とは真逆では?」
「でしたら、朝はシャッキリ&夜はグッスリのハーブティーセットとして販売いたしませんか!?」
「まぁ…!」
こんな感じで、お互いの長所を認め合い伸ばし合い、良い交流…交礼募企画が行われた。
もちろん人が増えればそれだけ揉め事はある。
先の通り酌女や性サービスまがいの行為を行い、国から運営を止められた教会が出た事で、ここでも同じ事を…と言われたり、逆に「他の教会はやってくれた」とサービスを強要する不届き物もいた。この辺りは誠実な姿を見せて運営に問題が無い事をアピールしたり、問題のある信者さんが来たときは兵所と連携を取り厳重注意をしてもらったり、吟遊詩人さんが追い出してくれることで解決した。
「旅が長いからね。熟練冒険者や騎士ほどじゃないけどそれなりに心得はあるよ」
うん、やっぱりカッコイイ。そしてやっぱり、聖女より神官様がメロメロになっている。
他にも、好意があっても迷惑になる事はたくさんある。修道女に恋をして付きまとう者もいる…が、これは昔から多い。悩みを聞いたり加護を与えていると恋心と錯覚するらしい。この辺りは国と協会本部に修道士の保護制度をがあるのでそちらの機関へお願いする。
他には純粋なファンでも交礼募をした事で「ソロの方がいい」「いいや2人一緒が良い」「別の人と組んだ方がいい」という信者の中で好き嫌いが分かれて揉め事になる事態が起きてしまった。
「どうしましょう?」
交礼募先の教会で修道女のまとめ役をしているショウコ様が申し訳なさそうに首を傾げる。あれから交流が増えて、こうして個人的にも悩みを聞き合う仲になった。因みに、ショウコ様には私の前世の話をしているがそれ以外の人はうちの教会の人以外にはヒミツにしている。
正直な所、私はほっといても良いんじゃないかなぁと思ったけれど、ショウコ様としては信者同士、神に遣える者同士、同じ志を持つ者として手を取り合う関係を求めている。
何かあったかなぁ。前世の記憶をぐるぐる廻る。
「ああーなんか、なんだろう、えす、えぬ、えす……で、おふしょ?」
「えすえぬえすでおふしょ?」
「なんか、そういうので修道女としての業務以外でも普段から仲良しな事を知ってもらって、友人として交流があるから信頼をして共に仕事もできる! だから信者の皆さんも仲良くしてね! ……って伝えるような事をしてた……かも?」
「えすえぬえす……おふしょ……」
暫くなやみ、うつむいていたショウコ様が何かをひらめき顔をあげた。
「おふしょ……お風呂が一緒……とか!?」
「はい?」
「だって、すっごく仲良しな感じじゃないですか」
「確かに、仲良しじゃないとしないですけど……」
ショウコ様はちょっと、思い込むと一直線な所がある。
そうと決まれば!と私は手を引かれて人気の大衆浴場に連れていかれた。
よく考えたら、今まではお金が無かったから普段は濡らした布巾で身を清める程度。お風呂は一カ月に一度の清めの日入るくらいしかしていなかった。
それも教会にある大浴釜にお湯を沸かしてみんなで順番に入るという物……。
初めての人気大衆浴場はすごかった。広いしお湯も常に丁度よく温かい。石鹸も良く泡立つ。
子供のようにはしゃぐ私の背中をショウコ様があらってくれたり香油を塗ってくれたり、お風呂上りに人気のドリンクを飲んでみたりと、自覚は無いけどかなり目立っていたらしい。
結果「教会という仕事関係を抜きに私とショウコ様はとても仲がいい」という噂が知れ渡った。
「っていうか、身寄りのない別々の教会に属した二人が真の家族のようになる物語として酒場で歌われてるよ」
「とめて下さいよ吟遊詩人さん」
「いやぁ、これ人気で、収入的にさ」
「広げてるのは!あんたか!!」
それから私とショウコ様以外の修道女たちも大通りのお店で一緒に買い物をしたり、おそろいの便箋を使っていることを公言して、個人的な交流もアピールしていった。
結果、とりあえず信者同士の対立はこれで少し収まった。元々のグループやソロが好きという人も、それはそれと割り切ってくれたらしい。
でも多分おふしょってお風呂じゃないと思う!
いろいろあったが、教会の収入は安定し、信者も増えた。わざわざ国外から見に来てくれる人も多くいる。最近は修道女以外に神官の数を増やして加護付の品物も多く作るようにしている。
製品の土台までを職人さんにお願いして、仕上げの署名と加護は教会で行う、という流れを作った事で品質や供給も安定してきたし、職人さんの仕事が増えてこっちからも感謝された。
今日は複数の教会が集まって行う大舞台。
まずはいつものアップテンポ聖歌を各教会の聖歌担当の修道女隊が歌い、最後に全員で正式な聖歌を荘厳に歌い上げる。その後、神話劇を行って、もう一度聖歌を歌って終わり。
最後の聖歌の時は、信者さんたちにろうそくを持って照らしてもらう。ろうそくの色は自分の好きな修道女の持つ経典の色と同じものを選んでもらった。灯る日の色は同じだけど、その下にうっすら浮かび上がるろうそくのカラフルさに、舞台上からも感動した。
中には複数の修道女が大好きで、何本も持ってる人がいたけど…火事に気を付けてくれるならまぁ、いいか!
舞台の後、露天で軽食を買っている私に、一人の青年が声をかけてきた。
「あの、しおんサマ…ですよね」
外歩きのために教会の服装ではなく、どこにでもいるような平民の服に帽子をかぶっていたのによく気付いたものだ。
青年は、ちょっと地味で野暮ったいけど真面目そうな雰囲気。
どこにでもいるような人なのになぜかその人から目が離せなくなった。
「どこかで会った事ありますか?」
「あの、僕、サットーです。覚えてませんか?ずっとあなたのファンで…地下ドル時代から、会員No,0003で…」
「ちかどる?ぜろぜろぜろさん??」
「えっ…しおんサマも転移してきたんじゃないんですか…?みゅみゅみゅ女子校かげき部ッ!の紫担当、藤森しおんサマじゃ…」
「名前はシオンですが、そのみゅみゅ?っていうのは分かんないけど…あなた、もしかして」
私は彼に歩み寄って、その手を取った。なんだかすごく懐かしい感じがする。
これは、ずっと知ってた。
私が手を取って笑うと、お礼を言って、なんども笑ってくれて、だから、
あの時、どんなに悪意を向けられても、私はここで歌う事が使命だって思えた。
舞台の上から見下ろした慣れない客席、赤白青黄色といろんな光が灯る中で、たった一人だけ紫色に照らされながら手を振ってくれていた顔。
自分がどこに立っているのか、何をしているのかもボンヤリとしか思い出せないのに、笑っている彼の顔だけはなぜかはっきり見えていた。
だから、今私はこの人に聞かなきゃいけない事がある。
「えすえぬえすのおふしょって何ですか!?」
「は?」
「あなたなら知ってますよね!?」
逃がさないように両手をがっちりつかんで詰め寄ると、その人は顔を真っ赤にしながら何度もうなずいてくれた。
「ちょっと、ちょっと聞きたい事いっぱいあるんです話しましょう、いっぱい!」
この人が後に世界を救う勇者で、私がその旅に同行する事になる聖女で、その後結婚する事が決まって大勢の信者に祝福しながら泣かれるのはかなり先の話。
ゆるふわ勘違い転生?奮闘記でした。
知らなくてもどうにかなるメモ:
シオン…19歳。うろ覚え前世があるだけの普通のド根性修道女(後々聖女にランクアップ)。あの教会の中では古参なので神官にガンガン物申す。
みゅみゅみゅ女子校かげき部ッ!…地下アイドルグループ。通称みゅげき。
藤森しおん…みゅげき初期からのメンバーで紫担当。自称お色気お姉様のしゃべるとポンコツカワイイポジ。18歳デビュー、26歳交通事故死。本名藤森詩織。
サットー…推しの交通事故死で絶望していたら異世界召喚されて勇者にされた元ドルオタ社会人23歳。本名佐々木敏夫。
ショウコ…巫女(東国の修道女)を務めた祖母を持つ以外は普通の修道女
シオンがサットーと旅立つと決まった時に号泣して縋りつき、結婚が決まった時は泡を吹いて倒れた強火シオン信者。私の方が先に一緒にお風呂入ったのに。
神様…多分元日本の雑過ぎる一般人が運悪く神格化した存在なので宗教に関する認識が雑。楽しく信仰してね。




