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終末クラブ



「『終末クラブ』って知ってる?

『本物の終末を疑似体験できる』って会員制のクラブなんだって。

地下シェルターに二日間閉じ込められて、世界が滅ぶところをリアルに味わう……

……あなたなら、参加する?」


ーーーーーーーーーーーーー



 送迎の車に揺られて十数分。

 男と3人の参加者は雑居ビルが立ち並ぶ通りで降ろされた。


 おそらくは街の中心部。しかし、男には来た事がない場所だ。

 その一角に地下シェルターはあった。


「ここが我がクラブ所有の地下シェルターです。今から二日間、参加者の皆様にはここで疑似的な終末体験をしてもらいます」


 男がこの「終末クラブ」の存在を知ったのは大学の友人の紹介でだった。

 普段無口な友人が妙に目をギラギラさせながら勧めてきて、若干引いたが内容的にも面白そうだし、そこまで推してくるのだからおそらくは肩透かしにはならないだろう。


 そういう経緯でここにいる。

 

 

 男と参加者は地表に出ている小さなコンクリート製の入り口から、階段を下り地下へ。

 4人ほどが過ごせるというシェルターの中は大きな部屋があり、その両脇には二段ベッドが二つ置かれている。


 そして、中央にはテーブルと椅子、テレビ。

 

「それでは外部との通信を遮断するためにスマホは我がクラブの特注品と取り替えますね」


 与えられたスマホは終末クラブの仕掛けに利用するらしい。内蔵のSNSを模したアプリを開けば世界の消滅するさまをたくさんのbotの呟きで見られるとのことだった。


 最後に案内役の女性がこう言い残した。


「あと、終末体験中は絶対に外に出ようとしないでくださいね」


 重い鉄の扉が閉まり、ロック音が響いた瞬間、男は軽い閉塞感を覚えた。参加者たちは自己紹介を簡単に済ませた。30代の会社員、20代後半のフリーライター、40代の自営業の男。そして男自身。


 与えられたスマホのアプリは恐ろしく精巧だった。botたちが次々と「崩壊のニュース」を流し、テレビもリアルタイムの臨時ニュースを流し続けている。


 ニュースからは臨時ニュースが流れている。アメリカで内戦が起こったという設定らしい。それを伝えるアナウンサーはAIでも使ったのか実在の人物にそっくりだ。


 スマホからもbotたちの呟きが緊迫の度合いが増しているのがわかる。

 そして夜7時。


 ニュースから緊急警報音が流れ、アナウンサーが声を張り上げる。


「さきほど、アメリカのワシントンDCで大規模な爆発があり、壊滅状態になっているとの情報が入ってきました。日本全土に空襲アラートが発令されています。みなさん、安全な場所に避難してください!」


 ややあって大きな振動が地下シェルターに響いた。そのとたん、テレビは消え、スマホのアプリで止まってしまった。


 参加者の一人がなんともなしに呟いた。


「これ、本当にシミュレーションだよな?」



 翌日。シェルターは静かだった、


スマホは一切繋がらず、テレビも映らない。時間だけが異様にゆっくりと流れる。

退屈と不安が、参加者たちの神経を少しずつ削っていった。


「なあ、ほんとに外は無事なのか?」


 参加者の一人が尋ねた。


「全部、ただの演出だっていうけどよ、振動もすごかったし、急に全部止まるなんて……。おかしくないか?」


「もしかしたら昨日の揺れは地震だったんじゃ?」男は答えた。


 沈黙。ややあって会社員がおずおずと切り出した。


「じゃあちょっとだけ外の様子を見てみませんか?」


「それは禁止されてるって」と、自営業の男。


「そうですよ。絶対に扉は開けるなって言われてるでしょ」


「ちょっと見るだけだからばれないですよ」


制止する声を振り切り、非常口の階段を上がっていった。

やがて、重い扉を開ける金属音が響いた。数秒後、凄まじい叫び声がシェルター内に反響した。


 その人の叫び声で男と他の参加者は扉の外に出てきた。

 外の景色は信じられないものだった。

 

 灰色の光景というべきなのか。

 地下シェルターの周りで林立する雑居ビル自体の形は残っているが、窓とい窓は吹き飛び、黒いすすが壁に跡を残している。地面には黒焦げた数台の車がひっくり返り、その下敷きになっているのはもしかして真っ黒に焼け焦げた人だろうか。


 焦げたような臭いが男の鼻を刺激した。


「なんなんだよこれ」


 4人はがれきの山と化した市街地をさ迷い歩いた。

 遠くにはキノコ雲のようなものがまだ薄く残っていた。


 その時、建物の陰から何かが現れた。

 そのとたん手にある銃のようなものから光線が飛び出し、男は撃たれて気が遠くなっていった。



「XXさん? XXさん?」


 男は呼びかけられる声で目を覚ました。

 見慣れたシェルターの天井。二段ベッドの上だった。


「終末体験ツアーはいかがでしたか? もう帰る時間ですよ」


 寝ぼけていた男の脳裏にさっき見た光景がフラッシュバックした。


「外は!?」


「外がどうかしたんですか?」


 男は急いで階段を上がり、外に出た。

 何も変わらない街の日常がそこにあった。



 男は他の参加者にも聞いてみたが、みんなベッドで寝ていたらしい。そして同じ夢を見ていた。男は必死に自分を納得させようとした。


ただの夢だ。強烈な暗示にかかっただけだ——と。しかしその三ヶ月後、男は重度の放射線被曝による急性白血病と診断された。


他の参加者三人も、次々と同じ病に倒れていったという。


ーーーーーーーーーーーーーー


 

「……どうだった?」月ヶ瀬は静かに微笑んで言った。


「終末クラブは今も会員を募集してるみたい。でも参加した人たちの間で、こんな噂が広がってるんだって。『あのシェルターは、本当に核戦争が起きた日にタイムスリップしていたのかもしれない』。外に出た人は大量被曝して死に、出なかった人もシェルターの中にいたから、じわじわと放射能を浴び続けた……って。……疑似体験じゃ、なかったのかもしれないね」


月ヶ瀬は最後に、眠そうな目でこちらを見て囁いた。


「あなたは、扉を開けちゃう?」




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