第五部 第十三話 凛と蘭 秘蔵フォルダ、開封(※制御不能)
その写真僕も欲しいです。
そのフォルダは、ずっと「その時が来たら」と
名前を付けられて保存されていた。
凛の端末。
蘭のバックアップ。
同期済み。
「……そろそろじゃない?」
「うん」
「噂、熟してる」
「下層から中層に回りきった」
画面には、いくつもの切り抜き。
「佐伯さん、感情ないらしい」
「人間じゃない説」
「アンドロイドって言われてる」
二人は、静かに頷いた。
「じゃあ」
「“人間だった頃”を出す?」
その瞬間、別回線が繋がる。
「……あなたたち」
ジェシカだった。
「まさか今?出すつもり?」
「はい」
「満を持して」
「限定じゃ足りない」
ジェシカは、少し考える。
ほんの数秒。その間に、いくつもの“最悪”と“最善”が
頭の中を通過する。
「……いいわ」
二人の目が輝く。
「ただし。条件がある」
指を一本立てる。
「“正解”は提示しない。説明もしない
ただ”上書き”する」
「噂は?」
「噂で潰す」
凛が笑う。
「最高」
「炎上管理、完璧」
その時点で、もう止まらなかった。
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最初は、本当に小さなところからだった。
「……なにこれ」
「見つけたんだけど」
「これ、佐伯さん?」
共有された動画。
帰宅直後。突っ込んでくる影。床に沈む細い身体。
「……弱くない?」
「いや」
「普通に人間じゃない?」
別の動画。
書類に囲まれて、眠り落ちた姿。
誰かが毛布をかける。
「え」
「寝るんだ」
写真。
眼鏡をずらして、ブラックコーヒーを拒否する瞬間。
「砂糖三つ」
「子供か」
そして、致命的な一枚。
ノアの腕の中で、完全に捕獲されている悠馬。
「……」
「……」
「アンドロイド?」
「大型犬に捕まる?」
コメントが、静かに増えていく。
「思ってたのと違う」
「感情あるじゃん」
「むしろ守られてない?」
限定公開だったものが、なぜか拡散される。
“誰かが持っていた”
“誰かに渡した”
“誰かが保存していた”
出所は、もう誰にも分からない。
噂の出元だった場所から、逆流するように。
「……見た?」
「なに」
「佐伯さんの」
「これ?」
アンドロイド説が、音を立てて崩れる。
代わりに浮かび上がる、別の像。
「細い」
「普通に疲れてる」
「というか」
「人間じゃん」
だが、上書きはそれで終わらない。
「ノアとの距離近くない?」
「BL?」
「いや兄弟?」
「いや」
「分からん」
噂は、新しい形を得た。
怪物ではない。でも、”普通でもない。”
その少し前。
ジェシカは、画面を見つめながら小さく呟いた。
「……これでいい」
凛と蘭を見る。
「噂はね、止めるものじゃない」
「”上書き”して意味を散らす」
「誰も、“正解”に辿り着けないように」
双子は、にやりと笑う。
「じゃあ」
「次は」
「どの噂?」
遠く離れた場所で。
佐伯悠馬は、まだ何も知らない。
自分が“人間に戻され始めている”ことを。
それが、救いなのか。新たな地獄なのか。
この時点では、まだ誰にも分からなかった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




