第五部 第四話 ノアの卒業
兄ちゃんスキーのノア君が現場に戻ります
卒業式は、思っていたよりあっさりしていた。
校庭に並ぶ制服。形式ばった挨拶。拍手。
いつも通りの光景だ。
ただ一つ、違っていたのは。
俺が、もう戻る場所を知っていることだった。
「……終わったな」
式が終わり、友人と並んで歩きながら呟く。
「これからどうすんだ?」
軽い調子で聞かれる。
次男、三男が
家を出る話。
大学へ行く話。
外で働く話。
この学校では、珍しくない。
「……一回、家に戻る」
「へえ」
「現場?」
「たぶん」
それ以上は、話さなかった。
話す必要もない。
彼らは、俺の兄を知っている。
監督生だった頃の姿を。
「あの人が家にいるなら大変だろ」
誰かが冗談めかして言う。
「ついていけるやつ少ないって」
笑い声。
でも、悪意はない。
それが、一番リアルだった。
「……そうだな」
俺は、苦笑して答えた。
帰りの車。
窓の外を眺めながら、考える。
この数か月。
家にいなかった間に、兄は全部を引き受けた。
正しく。静かに。誰にも頼らず。
だから、こうなった。
評価が固まり、噂が形を持ち、置いていかれる人が出た。
それは、兄さんの失敗じゃない。
でも、兄さん一人ではどうにもならない。
「……戻るか」
小さく呟く。
覚悟、というほど大げさなものじゃない。
ただ、見てしまったから。
見えないふりができなくなった。
ウィルトシャーに着く。
屋敷の前で、一度深呼吸する。
兄さんの姿は見えない。
今も、ロンドンだろう。
それでいい。
今は、並ばなくていい。
でも。
”並ぶ準備は、終わった。”
拓海父さんが声をかけてくる。
「卒業、おめでとう」
「ありがとう」
「どうする?」
分かっていて聞いている。
「……現場」
即答だった。
「最初は見て回るだけでいい。
決めない、背負わない、拾うだけ」
拓海父さんは、少しだけ笑った。
「それでいい」
夜。
部屋で一人になる。
スマホを手に取って、兄さんの名前を見る。
メッセージは送らない。
今は、まだ。
代わりに、心の中で言う。
(兄さん。全部、見えてなくていい)
見えないところは俺が拾う)
(だから)
(今度は、一人で立つなよな)
窓の外。夏は、もう近い。
ノア・ハミルトンは、卒業した。
そして同時に、”戻る準備が整った。”
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




