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第五部 第三話 分かるはず、という前提

拓海父ちゃんも息子がこんなこと言われてたらそりゃ辛かろうて。




話をしたのは、ロンドンのオフィスでも、

ウィルトシャーの屋敷でもなかった。


現場に近い、小さな会議室だった。


拓海は、作業着のまま椅子に座り、

ペットボトルの水を飲んでいる。


悠馬は、スーツのまま向かいに座った。


「……噂、聞いたか」


拓海が切り出す。


「はい」


即答だった。


「オフィスで少し」

「少し、か」


拓海は、苦笑する。


「現場じゃもう少し具体的だ」


悠馬は、眉をひそめた。


「具体的、とは」

「佐伯はドライだ」

「説明しない」

「ついてこれない人間は切る」

「現場を分かってない」


淡々と、列挙される。

どれも、先ほど聞いた言葉と大差ない。


「……それは」


悠馬は、一瞬考えた。


「事実誤認です」


きっぱりと言う。


「切っていません。

説明も必要なところではしています」


「現場も、把握しています」


拓海は、否定しなかった。


「分かってる」

「お前が嘘をついてないことは」

「だがな」


一拍置く。


「分かってることと、伝わってることは違う」


悠馬は、少し困惑した顔になる。


「……伝えています」


「資料も共有しています」

「判断基準も明示しています」

「きちんと見れば分かるはずです」



その言葉を聞いた瞬間、

拓海は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。


そして、ゆっくりと顔を上げる。


「……そこだ」

「どこが問題ですか」


「“きちんと見れば分かるはず”って考え方だ」


悠馬は、言葉を失う。


「皆が同じように見れると思ってる。

皆が同じ速さで理解できると思ってる」


「それがもう、ズレてる」


悠馬は、反射的に言い返す。


「……努力すれば可能です。自分もそうしてきました。だから、皆も……」


言葉が止まった。


ふと、別の声が頭をよぎる。


ーー同じように見えてるわけじゃない。


ノアの声だ。


あの時。感情的で、整理されていなくて。

それでも、妙に引っかかった言葉。


ーー少なくとも、俺には見えない。


悠馬は、一瞬だけ視線を落とした。


ノアは、考えるのが苦手なわけじゃない。

むしろ、考えすぎて動けなくなるタイプだ。


それでも。


「見えない」とはっきり言った。


今まで、その言葉を深く考えたことはなかった。

ただの、感情の吐露だと思っていた。


だけど。


今、拓海の言葉と重なる。


ーー皆が同じように見れると思っている。


その瞬間、胸の奥で小さく、何かが音を立てた。


答えには、ならない。

ただ、引っかかる。


それだけだ。言葉が、途中で止まる。


拓海は、ため息をついた。


「なあ、悠馬…」


「お前がそうなれたのは努力だけじゃない」

「……」

「能力だ。しかもかなり高い」


悠馬は、首を横に振ろうとする。


「否定するな」


拓海が、静かに止めた。


「お前がそれを“普通”だと思ってるのが一番の問題だ」


しばらく、沈黙が落ちる。


悠馬は、視線を落とした。


「……自分は間違っていません」


それは、確認するような声だった。


「間違ってない」


拓海は、即答する。


「正しいし、結果も出てる」


「だからこそ」


一歩、踏み込む。


「人は置いていかれる」

「……」

「悪気はない。でも、置いていく側が“正しい”って顔をしてると、

置いていかれた側は自分を否定されたと感じる」


悠馬は、何も言えなかった。


「現場の連中はな」


拓海は、続ける。


「お前を嫌ってるわけじゃない」

分からないんだ」


「分からないことを認めるのが怖い。

だからお前を遠ざける」


それは、責めでも告発でもなかった。

ただの、現実の説明だった。


悠馬は、ゆっくりと息を吐く。


「……自分は、、分かってもらう必要があるのでしょうか」

「ある」


拓海は、迷わず言った。


「上に立つなら、特に」


その言葉が、胸に刺さる。


「……自分は、効率を優先しています。

回らない方が問題です」


「それも正しい」


拓海は、少し笑った。


「だから厄介なんだ」


立ち上がり、悠馬の肩に手を置く。


「悠馬、お前は“見えている側”だ。だから“見えていない側”の気持ちが分からない

それは欠点じゃない」

「だが、上に立つなら無視できない」


悠馬は、目を閉じた。


自分がしてきたこと。

自分が信じてきた前提。


それが、他人にとっては重荷になっている可能性。


「……分かりました」


そう言ったが、完全には飲み込めていない。

それが、自分でも分かった。


拓海は、それ以上踏み込まなかった。

踏み込めば、壊れる。


その境界が、見えていたからだ。


会議室を出る。


背中越しに、拓海は思う。


(ああ、お前はここまで来てしまったんだな)


優秀すぎて。

正しすぎて。

誰にも追いつかせない場所まで。


それを作ったのは、自分たち大人だ。


その責任を、拓海は重く感じていた。


そして、悠馬はまだ知らない。


この「理解できない」という感覚が、

次の段階で自分を深く傷つけることを。



感想をいただけると嬉しいです。

※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。

よろしければ見てください。


AIアシスト作品です。


僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。

気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。

これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。

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