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第五部 第二話 悠馬、理解できない噂

しばらくちょっと重たいかも。


それを聞いたのは、会議でも報告でもなかった。

ただの、通りすがりの雑談だった。


コピー機の前。

廊下の角。

誰も、誰かを責めるつもりのない声。


「……佐伯さんって、結構ドライだよね」


「まあ、あの立場なら仕方ないんじゃない?」

「人を切るの、早いっていうか」

「ついてこられない人は最初から数に入れてない感じ」


笑い声。

軽い調子。


冗談と本音の境目のような温度。


悠馬は、足を止めなかった。

聞こえなかったふりをするほど動揺してもいない。


ただ、頭の片隅に引っかかった。


「現場、見てないからできる判断だよね」

「数字だけ見て進めてる感じ?」


「オックスフォードのPPE出てるんでしょ?」

「エリートらしいよ」


エリート。


その言葉が、少し遅れて胸に落ちる。


以前は、そんな言葉は聞こえてこなかった。

あるいは、聞こえていても意味を持たなかった。


今は、違う。

オフィスに戻る。

資料を開く。


数字は合っている。工程も進んでいる。


判断に、問題はない。

少なくとも、結果は出ている。


「……人を切り捨てる、か」


自分が、そうしている自覚はない。

判断を後回しにしない。


説明を省くことはある。


でも、それは効率の問題だ。


理解できない人を排除しているつもりはない。


排除するなら、もっと露骨な方法がある。

そう思う。


だけど。


”理解できないことと、理解されないことは別だ。”


それを、意識した瞬間。

噂の言葉が、少し違って聞こえた。


「佐伯さんって、人を人間だと思ってないんじゃない?」


誰かが、冗談めかして言う。

笑いが起きる。


誰も、本気だとは思っていない。

だから、責任も生まれない。


悠馬は、自分のデスクに腰を下ろした。


モニターに映る進捗表。


名前。

数字。

完了予定。


全てが、整理されている。


それが、悪いことだとは思えなかった。


”整理しなければ、回らない。”


それは、事実だ。


しかし。


整理された表の中に、感情はない。

感情を切り捨てた覚えはない。


だが、拾ってもいない。


「……なるほど」


小さく、息を吐く。


噂は、事実をそのまま伝えない。


”結果だけを、感情で解釈する。”


だから、こうなる。


ドライ。

切り捨て。

現場を知らない。

エリート。


どれも、完全な嘘ではない。

だが、正確でもない。


それが、一番厄介だった。


その日の夕方。

拓海から短いメッセージが入る。


『今度、少し話せるか』


返事を打つ。


『はい。時間作ります』


理由は、聞かなかった。


聞かなくても、分かる。


現場でも、似たような言葉を拾っているのだろう。


そして、エド叔父の顔も頭に浮かぶ。

あの人は、きっとまだ表に出さない。


表に出すほど明確な問題じゃないからだ。


ジェシカ叔母様なら、こう言うだろう。


ーーーまだ、噂ね。


ーーーでも、名前が独り歩きし始めてる。


その通りだ。


悠馬は、椅子に深く座り直す。

この程度なら、想定内だ。


どの組織でも起きる。

評価が高まれば、反動も来る。


だから、今は無視する。

問題として扱わない。


”扱わない、という判断をしているだけだ。”


ただ。


胸の奥に、小さな違和感が残っている。

それは、怒りでも恐れでもない。


「理解できない」という感覚。


自分が、どこでそう見られ始めたのか。

それが、まだ分からない。


だから。


今日も、いつも通り仕事をする。


この噂が、次の段階に進むまでは。


その段階が、どこなのかを知らないまま。




感想をいただけると嬉しいです。

※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。

よろしければ見てください。


AIアシスト作品です。


僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。

気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。

これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。

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