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第五部 第一話 悠馬、想定内、という判断

悠馬君のロンドンのフラットから実家まで大体車で2時間くらいらしいです。

違和感は、いつも唐突にやってくるわけじゃない。


むしろ逆だ。


「ああ、こういう時期か」と、過去の経験に照らして理解できてしまう形で現れる。


だから、最初は気にしなかった。


ロンドンのオフィス。

午前の会議が終わった直後。


「……佐伯さん」


若いマネージャーが、少し言いにくそうに声をかけてくる。


「先ほどの件ですが」

「はい」

「一部、現場側から質問が出ていまして」


質問。それ自体は、珍しくない。


「内容は?」


「……判断基準について、です」


その言葉で、大体の方向性は分かる。


「どの判断か、具体的に聞いていますか?」

「いえ」

「“分かりづらい”という声が、少し」


少し。


この言い回しも、覚えがあった。


組織が安定し始めた時に、必ず出る種類の声だ。


「ありがとう」


悠馬は、それ以上深掘りしなかった。


「今は対応しなくていいです」

「……よろしいんですか」

「はい」


理由を説明する時間は、取れる。


だが、取るべきではない時もある。

今は、その段階じゃない。


マネージャーが去った後、秘書が控えめに言った。


「最近、似た声が増えています」

「知っています」


即答だった。

把握はしている。


ただ、優先順位が低いだけだ。


資料をめくる。


数字は合っている。

工程も回っている。

問題は、まだ起きていない。


”起きていない問題に、先に時間を割く余裕はない。”


それが、今の判断基準だった。


昼過ぎ。

別の打ち合わせ。


「佐伯さんがいらっしゃると話が早いですね」


笑顔で言われる。


「助かっています」


以前なら、素直に受け取っていた言葉。


今は、少しだけ引っかかる。


助かる、という言葉の裏には責任の集中がある。


だが、それも想定内だ。


午後。

別件の処理。


決裁。

修正。

再配置。


淡々と進める。


誰かが自分の顔を見て安心するのが、分かる。


それも、よくあることだ。

人は「決めてくれる人」がいると落ち着く。


夕方。


ウィルトシャーから一本の連絡が入る。


「最近、順調だと聞いている」


親族の声。


「現場も落ち着いているようだな」


「はい」


事実を返す。


「ノアがいなくても、問題はないのだろう?」


一瞬、言葉を選ぶ。


「……今のところは」


嘘ではない。


ただ、それ以上でもない。


通話が終わる。

窓の外を見る。


ロンドンの街は、今日も忙しい。


その中で、

自分の名前が

静かに流れていることを、

悠馬は知っていた。


だけど。


それを止める理由は見つからなかった。


噂。

評価。

違和感。


どれも、過去にも経験してきた。


”組織が変わる時には、必ず出る。”


だから、今は無視する。

切り捨てではない。


後回しだ。

順位を下げているだけだ。


「……問題が顕在化したら、対応すればいい」


そう考える。

それが、今まで通用してきたやり方だった。


そのやり方が、通用しなくなりつつあることに、

この時の悠馬はまだ気づいていない。


あるいは。


気づいていて、認めていなかったのかもしれない。

人の上に立つということは、すべてを感じ取ることではない。


”感じ取るべきものを、選ぶこと”だ。


その選択が、正しいと信じていた。

少なくとも、この時点では。



感想をいただけると嬉しいです。

※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。

よろしければ見てください。


AIアシスト作品です。


僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。

気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。

これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。

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