第四部 十一話 悠馬、 名前で決まる不安と不満
話自体は地味に進んでると思うんだけどどうなんだろう。読んでて分かるか不安になる作者です。
変化は、音を立てて起きない。
ある日突然、評価が変わるわけでもない。
ただ、言い回しが少しずつ変わっていくだけだ。
ロンドンのオフィス。
午前の会議。
「……では」
誰かが言う。
「佐伯さんに一度確認を」
以前なら、“検討しましょう”だった。
今は、“確認”だ。
確認とは、是非を問う言葉じゃない。
”最終的な判断を委ねる言葉”だ。
「はい」
短く答える。資料を見る。
判断は、難しくない。
可でも不可でもない。
ただ、今じゃない。
「今回は、見送ります」
それだけで、話が終わる。
反論は出ない。
理由を詳しく説明しなくても、納得される。
それが、少し前から当たり前になっていた。
午後。
別の打ち合わせ。
参加者の一人が、笑いながら言う。
「最終的には佐伯さんが決めるんですよね」
冗談のようで、冗談じゃない。
「……そういう立場ではありません」
否定する。
だが、空気は変わらない。
「でも」
別の声。
「佐伯さんがいると話が早い」
「助かります」
助かる。それは、事実だ。
だけど。
”助かる存在は、いなくなると困る存在になる。”
それが、一番怖い。
会議後。
若い社員が、小声で言った。
「やっぱり、天才ですね。
オックスフォードのPPEですもんね」
その言葉に、一瞬だけ思考が止まる。
天才。
PPE。
どちらも、便利なラベルだ。
理解しなくていい理由になる。
努力も、過程も、切り捨てられる。
ラベルが貼られた瞬間、人は“分かったつもり”になる。
その日の夕方。
ウィルトシャーから連絡が入る。
「最近、落ち着いているそうだね」
親族の声。
「ロンドンでは君の名前がよく出る」
「安心したよ」
安心。
その言葉が、妙に重い。
「……問題は起きていません」
事実だけを返す。
「それが一番だ」
通話は、それで終わる。
机に戻る。資料の山。
判断待ち。
誰も、自分以外を見ていない。
その事実が、じわじわと胸に広がる。
ノアがいた頃は、必ず別の視点があった。
若さゆえの危うさ。
だが、それは問いでもあった。
今は、問いが減っている。
減った分だけ、正解が増えたように見える。
だけど。
”正解が一つに固定されると、間違いは見えなくなる。”
夜。
フラットの窓から、街を見下ろす。
ロンドンは、今日も動いている。
自分が止めなくても、世界は回る。
だが。
自分がいないと“決まらない”場所が増えている。
「……固定、か」
評価が、役割になり。
役割が、前提になる。
それは、気づいた時にはもう戻せない。
ノアが戻る時、この席は残っているだろうか。
それとも……。
“必要ない席”として消されているだろうか。
どちらも、あり得る。
だからこそ。
今は、立ち続ける。
でも。
”このままでいいとは、思っていない。”
その感覚だけは、まだ失っていなかった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




