幕間 ノア、 それぞれの道
ノアは人との距離が近いので友達の友達はみな友達です
学校に戻ったのは、九月に入ってからだった。
校舎は、夏休み前と何も変わらない。
同じ石畳。
同じ廊下。
同じ、少し古臭い空気。
でも。
自分だけが、違う場所に行って
帰ってきた気がした。
「久しぶり」
声をかけられる。
「……ああ」
返す。
カフェテリアで、同級生たちと適当に席につく。
話題は、いつも通りだ。
「休み、どうだった?」
「家?」
「まあ、色々」
それ以上は、突っ込まれない。
ここでは、それが普通だ。
誰も、家の中身まで聞こうとしない。
「で、進路は?」
次男だという同級生が、軽い調子で言う。
「俺?」
「うん」
「まだ」
正直に答える。
「へえ」
意外そうでもなく、彼は言った。
「俺は外に出るよ。家は兄が継ぐし。
好きなことやる」
「……迷いないな」
「最初はあったけど」
肩をすくめる。
「決めたら楽」
別の同級生が笑う。
「俺もだ。三男だしね。」
「最初から期待されてない」
笑い話のように言うが、嫌な響きはない。
「羨ましい?」
聞かれて、ノアは一瞬言葉に詰まった。
「……分からない」
「まあ、そうだよな」
納得したように頷かれる。
少し沈黙。
それを破ったのは、別の話題だった。
「そういえばさ、お前の兄」
胸が、わずかに跳ねる。
「佐伯先輩」
「……知ってる?」
「そりゃ知ってる」
即答。
「監督生だったし」
「雰囲気、完全に違ったよな」
「空気変える人」
ノアは、黙って聞く。
「正直」
一人が続ける。
「あの人が家にいるなら……大変だろ」
何気ない一言。
悪意はない。
ただの感想。
でも。
胸の奥に、ずしりと重いものが落ちた。
「……そう、見える?」
「うん」
「すごいけどさ、近くにいたら気を遣う」
「敵に回したくない」
笑いながら言われる。
ノアは、曖昧に笑った。
その感覚を、どう扱えばいいか分からなかった。
兄さんは、家の中では便利で、
頼られて、酷使されていた。
でも。
外から見ると、“別格”なのだ。
「……俺」
ぽつりと言ってしまう。
「ああいう兄が家にいるのってさ、
……おかしい?」
数人が、顔を見合わせる。
そして。
「いや」
「むしろ」
「放っといたら危ないだろ」
「色んな意味で!」
笑い声。
でも、その後の一言が決定的だった。
「一人にしておくと、全部引き受けそうだしな」
ノアは、何も言えなくなった。
それは、完全にその通りだったからだ。
昼休みが終わる。
席を立ちながら、同級生が言う。
「まあ」
「戻るなら覚悟いるな」
「……何が?」
「並ぶ覚悟」
ノアは、その言葉を胸の中で何度も反芻した。
並ぶ。
補佐じゃない。
支える、でもない。
同じ高さで。
そのために、今はまだ戻らない。
そう、初めてはっきり思った。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




