第四部 第七話 悠馬、 評価は、加速する
だんだん話が取っ散らかってので、そのうち、ちょっと人物関係の整理だします。
ロンドンでは、時間の流れが少し違う。
朝が早く、夜が遅い。
そして、判断が『早すぎるほど早い』。
オフィス近くのフラットに泊まる日が増えていた。
帰れないわけじゃない。
ただ、戻る理由が薄れているだけだ。
午前。外部との合同会議。
参加者は多い。顔ぶれも重い。
でも、議題は単純だった。
「結論から言います」
悠馬は、最初にそう切り出した。
周囲が、一瞬だけ身構える。
「この計画は、修正が必要です」
反論が来る前に、続ける。
「理由はこちらです」
一つずつ、淡々と並べる。
数字。
時期。
人の配置。
感情論は、挟まない。
誰も、割り込めない。
十分後。
議論は終わった。
決まったのは、当初案とは別の形だ。
だけど。
「……納得です」
相手が言う。
「こちらもその方が安全だ」
拍子抜けするほど、あっさり。
会議室を出た後、
秘書が小声で言った。
「最近、“佐伯さんが言うなら”で通りますね」
それは、褒め言葉だった。
だが。
その言葉に、少しだけ引っかかりを覚える。
午後。
別の案件。
別の会議。
同じように、短く切って、判断する。
結果は、どれも悪くない。
むしろ、良すぎる。
「……すごいですね」
若い社員が、素直に言う。
「こんなに迷わない人、初めて見ました」
悠馬は、小さく首を振った。
「迷っていますよ。
ただ、迷う時間を短くしているだけです」
その言葉は、正確だった。
だが、伝わってはいない。
ロンドンでは、評価がどんどん単純化されていく。
・判断が早い
・結果が出る
・無駄がない
それだけで、十分だった。
夕方。
一本の電話が入る。
ウィルトシャーからだ。
「最近、随分と評価が上がってるそうですね」
親族の声。
「ロンドンでは、佐伯が完全に仕切っていると」
“仕切っている”。
その言葉が、妙に重い。
「……現場が回っているなら、それでいいと思います」
そう答える。
それ以上、説明はしない。
説明すれば、誤解が増える。
電話の向こうで、誰かが言う。
「やはり、ノアがいなくても問題ないのですね」
その言葉に、ほんの一瞬だけ間が空いた。
「……問題は、起きていません」
事実だけを返す。
通話が終わる。
窓の外を見る。
ロンドンの街は、今日も忙しない。
一方で。
ウィルトシャーでは、別の形で情報が回っている。
「ロンドンは順調らしい」
「佐伯が全部見ているとか」
「やはり、あの人が立つと違うな」
屋敷の空気は、安堵に近い。
だが、その安堵は雑だ。
誰も、中身を正確には知らない。
結果だけが、届いている。
そして、結果だけで人を判断する。
……それが、一番危険だ。
夜。
ロンドンのフラット。
書類を閉じ、
ソファに身を沈める。
「……加速してるな」
評価も、
判断も、
期待も。
自分が意図していない方向へ。
だが、止めていない。
止める理由が、見つからない。
”壊れていないから。”
それだけで、走り続けている。
ノアがいたら、きっとここで言っただろう。
「兄さん、それ、速すぎない?」
その声は、今はない。
だから、自分でブレーキを探す。
でも。
評価が加速するほど、ブレーキは見えなくなる。
ロンドンとウィルトシャー。
同じ“順調”でも、意味が違う。
そのズレが、まだ誰にも問題視されていない。
それが、次の歪みになる。
悠馬は、そう予感していた。
だが、今は立つしかない。
評価が加速しているその中心に。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




