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第六話 佐伯悠馬は、静けさを信じていた

悠馬逃げ場を失いかける、の回

十三歳になって、僕は家を出た。


パブリックスクール。寮生活。

それを聞いたとき、屋敷の誰よりも………『僕』が安堵したと思う。

それは僕にとって避難だった。


静かで、整っていて、だれも僕を呼ばない。

止めなくていい。考えなくていい。

なによりも、「胃を押さえなくていい。」


最初の一か月、僕は本当に満足していた。


異変は、手紙から始まった。

短い一文。


「少し問題が起きた」


差出人は、ノア。


僕はその手紙をしばらく見つめてから、机の引き出しにしまった。


ーーー大丈夫だ。

ーーー今度は、大人が止める。


そう、思おうとした。


数日後、電話が鳴った。嫌な予感はよく当たる。

その後、すぐにノアが寮にやってきた。


「兄さん……」


ノアの声は妙に落ち着いていた。それが一番まずい。


「何があったの?」


「使用人の一人がさ、外部の管理会社の人ともめてた」


その時点で頭の中に、嫌な絵が浮かんだ。


話は、こうだった。


屋敷の敷地境界線を巡って、管理会社の担当が強い口調で責任を押し付けてきた。

使用人は委縮し、室次長は不在だった。

そして、その場に「ノア」がいた。


「相手が失礼だった」


と、ノアが言った。


「だから……正す必要があると思った」


だが、その『正し方』が問題だった。

ノアは、身分を名乗り、声を荒げ、相手の胸倉を掴んだ。

そして……押し倒した。


「怪我は?」


「相手は腕を打っただけだ」


それで済んだのは偶然だ。でも、そこからが最悪だった。

管理会社は激怒し、暴力行為として正式に抗議。相手は外部の人間で、立場は弱くない。


屋敷の名前が出れば噂になる。


……貴族の横暴

……力による支配


叔父上はそれを最も嫌う。


「父上がすごく怒っている」


ノアの声はそこで少しだけ揺れた。


「何が悪いのかわからない………」


それを聞いて僕は悟った。


『ノアは本気で理解していない』


彼にとっては、

・守る

・叱る

・制圧する

それが一直線につながっている。


止める人間がいなければ、迷いなく突き進む。

そして今その人間はハミルトン家にはいない。


「……悠馬兄さん」


ノアが言った。


「俺、間違ったのかな」


答えは簡単だった。でも言えなかった。

正しいか、間違いか、じゃない。


制御されていない力は「罪」になる。

そしてそれをノアはまだ知らない。


その日の夜、僕は学校に伝えた。

「家庭の事情で少し休みます」

それだけで充分だった。


誰も引き止めなかった。それが「普通」だった。


屋敷に戻ると空気が重かった。


叔父上は沈黙し、父は険しい顔で立っていた。

ノアはその真ん中で居場所を失っていた。


僕を見つけた瞬間、彼の眼がはっきりと安堵を示した。

それを見て、僕は胸が痛んだ。


説明は求められなかった。

ただ、状況を整理する役目が自然と僕に回ってきた。


謝罪。

示談。

再発防止。


口に出すたび、大人たちは静かに頷いた。


その夜、僕は部屋で一人座っていた。静かだった。

でも、寮とは違う。

ここでは静けさは僕が作らなければ存在しない。


ノアは、扉の前で立ち止まり、低い声で言った。


「やっぱり……悠馬兄さんが必要だった」


僕は返事をしなかった。返事をしたら、戻れなくなる気がしたから。

でも僕はもうわかっていた。

安息は選び続けないと手には入らないんだって。


そして………

僕は『選ばない自由』を失っている。

静かに……でも確かに。


安息が壊れる音が胸の奥で鳴った。











AIアシスト作品です。

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