第四部 第六話 悠馬、静まる現場
だんだんほのぼのタグが似合わなくなってきた(そもそも最初からじゃないか説)
会議は、基本的にオフィスで行う。
家と会社を分けないと、判断が濁るから…。
それが、今の自分のやり方だった。
午前九時。ガラス張りの会議室。
集まっているのは、グループ中枢の人間たち。
ノアはいない。
その事実を、誰も口にしない。
「……では」
そう言った瞬間、場の空気が一段締まる。
視線が、一直線に集まる。
期待ではない。
信頼でもない。
”確認”だ。
この人がどう判断するか。
それだけ。
資料を開く。
表に出ている問題は一つ。
裏で軋む要素が二つ。
さらに、“まだ問題として認識されていない火種”が一つ。
だから、最初に切る。
「この案件は、今は動かしません」
反射的に、誰かが口を開きかける。
だけど、最後まで言わせない。
「理由は三つ」
短く、順番に並べる。
説明は、最低限。
全員が理解するまで、噛み砕かない。
理解できないなら、それでいい。
”最終判断は、共有しなくていい。”
会議は、予定より二十分早く終わった。
「……静かですね」
誰かが言う。
「余計なことを言っていないだけです」
返す。
それは皮肉ではなく、事実だった。
オフィスを出る。
次は、屋敷だ。
車の中で、タブレットを開く。
ノアの件に関する細かい報告が、山ほど入っている。
表に出ない処理。
説明文の修正。
謝罪文の文言確認。
どれも、判断というより”後始末”だ。
屋敷に戻ると、空気が違う。
オフィスより、少し重い。
家だからだ。
「……佐伯様」
使用人が声をかける。
「本日の来客ですが」
「断ってください」
即答。
「理由は?」
「今は、会う理由がありません」
悪意はない。
ただの整理。
書斎に入る。
机の上には、家側の案件が並ぶ。
・ノアの不在に関する説明
・親族からの問い合わせ
・余計な噂の沈静化
・内部の感情処理
正直、オフィスの判断よりこちらの方が厄介だ。
感情が絡む。
だから、切り分ける。
判断するもの。受け止めるもの。流すもの。
それぞれ、別の箱に入れる。
昼。
秘書が言う。
「件数が、かなり増えています」
「分かっています」
ノアの件がなければ、三割は減っていた。
だが、それも想定内だ。
増えた仕事を、淡々と処理する。
速くはない。雑でもない。
ただ、止まらない。
午後。
オフィスに戻る。
外部との打ち合わせ。
「佐伯さんが直接来るとは」
相手が言う。
「今回は、必要でした」
それ以上は言わない。
説明しない。
説明すると、“理解したつもり”の誤解が生まれる。
それは、余計な仕事を増やす。
会議が終わる。結果は、悪くない。
むしろ、想定より早く収束した。
「……さすがですね」
誰かが言う。
「助かっています」
感謝の言葉。
悪意はない。
だが、そこに混じる違和感を自分は見逃さない。
『“これでいい”という空気。』
それが、一番危険だ。
夕方。
屋敷に戻る。廊下は静かだ。
ノアがいた頃の、ざわつきがない。
効率は上がった。判断も早い。
誰も、迷わない。
だからこそ。
「……無双、か」
誰かが言えば、そう呼ぶのだろう。
だが、これは強さじゃない。
『全部を、一人で引き受けているだけだ。』
ノアがいたら、ここで立ち止まっただろう。
疑問を挟んだだろう。
今は、それがない。
だから、自分が全部考える。
それが、正しいかどうかは分からない。
ただ、壊れない。
それだけを選んでいる。
夜。
一人で書斎に座り、最後の報告に目を通す。
ノアの後始末は、ほぼ終わった。
あとは、時間がやる仕事だ。
「……これが、完成形だと思われたら、困るな」
誰にでもなく、呟く。
静かすぎる現場。整理されすぎた家。
この状態が、長く続くとは思っていない。
必ず、歪みは出る。
その時、自分は一人で受け止めるのか。
それとも。
並んで立つ誰かを、もう一度迎えるのか。
答えは、まだ出ていない。
だけど。
今は、「立つ。」
ノアの席が、空いている間は。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




