第三部 第十六話 夏のあいだに起きていること
エド叔父:結婚問題はまた別枠でいいということだな( ̄ー ̄)ニヤリ
~エドワード・ハミルトン~
正直に言えば、もう一度、呼ばれるとは思っていなかった。
前回で、言うべきことは言われた。
責められ、整理され、逃げ道も塞がれた。
あれで終わりだと、どこかで思っていた。
だから、応接室に通されたとき、エドワードは少しだけ身構えた。
だけど。
そこにいたのは、怒っている佐伯悠馬ではなかった。
「お時間、ありがとうございます」
淡々とした声。礼儀正しい距離。
以前と同じはずなのに、何かが違う。
それが何かを、言葉にする前に、話は始まった。
「今回の件について、補足だけさせてください」
補足、という言い方が、妙に引っかかった。
整理でも、確認でもない。
“補足”。
つまり、結論はすでに出ている。
「ノアが、現場に出ています。
夏休みのあいだ、という条件付きで」
条件付き。期限付き。
エドワードは、それだけで察した。
これは、突発的な配置ではない。
意図された一時的措置だ。
「……彼は、まだ学生だ」
分かりきったことを言う。
「承知しています」
即答だった。
「だからこそ、今です」
今。
八月。
あとひと月もすれば、ノアは学校に戻る。
この夏は、取り返しがつかないほど短い。
「彼は、補佐ではありません」
その言葉に、エドワードは眉を動かした。
「一緒に立つ側として、扱っています」
補佐でも、代理でもない。
だが、当主でもない。
危うい配置だ。
「……危険だな」
思わず、本音が漏れた。
「はい」
否定しない。
「だから、僕は下がりません」
その一言で、全てが繋がった。
下がらない。だが、前に出続けるとも言わない。
エドワードは、そこで初めて理解した。
これは、
守りでも、委譲でもない。
試している。
ノアを。
そして、自分自身を。
「……君は」
言葉を探す。
「ノアを、どうしたい?」
少し、踏み込んだ問い。
悠馬は、一瞬だけ考えてから答えた。
「選ばされる人間には、したくありません」
当主にする、とも言わない。
家を継がせる、とも言わない。
ただ、”選ばされない”ようにする。
それは、ひどく個人的で、
同時に、この家の歪みそのものだった。
エドワードは、思い出していた。
自分が若かった頃。選択肢が、
最初から一つしかなかったことを。
「……夏が終わったら?」
そう問う。
「学校に戻ります」
迷いはない。
「逃げるためではなく、考えるために」
その言葉を聞いて、エドワードは悟った。
この配置は、長く続かない。
だが、意味は残る。
ノアにとっても。悠馬にとっても。
……そして、この家にとっても。
「……私は」
静かに言う。
「口を出さない方が、良さそうだな」
「助かります」
その返事は、
感謝でも、
安堵でもなかった。
ただの事実確認だ。
立ち上がり、応接室を出る。
廊下を歩きながら、エドワードは思った。
これは、叱られたあとの話ではない。
次の段階に入った、という合図だ。
悠馬は、もう以前のように前に立ってはいない。
だが、後ろにもいない。
ノアは、まだ未熟だ。
だが、守られているだけの存在でもなくなった。
この夏が終わった時、
同じ場所に立っている者は、一人もいないだろう。
それが、分かってしまった。
だからこそ、エドワードは背筋を伸ばした。
これは、見守るしかない局面だ。
下手に触れれば、全てが壊れる。
そして何より――
佐伯悠馬という人間を、もう“便利な位置”に戻してはいけない。
そう、強く思った。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せます。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




