第五話 ノア・ハミルトンは、疑わなかった
ノアはわんこみたいだな
俺は昔から、「考えなくていい」そう思って生きてきた。
走れと言われれば走るし、とまれと言われれば都丸。
殴るべき相手と、殴ってはいけない相手の区別は・・・
悠馬兄さんが教えてくれる。
それで問題は起きなかった。
俺が初めて本気で殴ろうとした日、悠馬は前に出た。
声は低く、顔色も変えず、ただ一言。
「下がれ」
あのとき、理由なんて要らなかった。
悠馬兄さんが言うならそれは正しい事。
それだけだった。
父上は、俺を見てよく笑う。
強くなってきたな、立派だな、期待しているぞ、、、。
父さん(拓海)は何も言わずに肩をたたく。
・・・・でも・・・。
俺が見るのはいつも悠馬兄さんの背中だった。
悠馬兄さんは十三歳になって、家を出た。
パブリックスクール。寮生活。
聞いたとき、俺はすこしだけ落ち着かなかった。
「兄さん、大丈夫?」
そう聞いた俺に、悠馬兄さんは笑った。
「大丈夫だよ。少し、静かになるだけ」
その言葉がなぜか引っかかった。
悠馬兄さんがいない屋敷はうるさかった。
凛は相変わらず走り回り、
蘭は相変わらず動かず、
大人たちは好き勝手に決める。
俺は・・・・止まれなかった。
止める人がいなかったから。
「・・・迎えに行くか」
そういったのは誰だったか。
父上だったのか、
父さんだったのか、
菜摘叔母様だったのか。
気づいたら俺は車に乗っていた。
パブリックスクールは静かで、整っていて・・・・不釣り合いだった。
寮の中庭で、悠馬兄さんを見つけた。
その姿を見て、胸の奥が変にざわついた。
「兄さん!」
声をかけると、ゆっくりと顔を上げる。
すこし、安心した顔をしたのを、僕は見逃さなかった。
「ノア、静かだろ?ここ」
悠馬兄さんは言った。
「誰も走らないし、だれも怒鳴らない」
それは、いいことのはずだった。でも俺はわかった。
ここには悠馬兄さんの役割がない。だから・・・
だからここは「安息」なんだ。
「でもさ」
俺はとうとう言ってしまった。
「俺…困ってる。」
悠馬兄さんの眉が、ほんの少し動く。
ただ・・それだけで俺は安心した。
「何が困ってるの・・・?」
「考えなくちゃいけない」
悠馬兄さんはため息をついた。
昔から知ってる、あのため息だ。
その日の夜、悠馬兄さんは寮を出た。
『それだけで充分だった。』
屋敷に戻ると、父上と父さんが無言で頷いた。
俺は、何も思わなかった。当たり前だと思っていた。
だって・・・・
悠馬兄さんは「そういう役割」だから。
夜、悠馬兄さんは胃薬をのんでいた。
「・・・・やっぱり、静かすぎるのも向いていなかったみたい。」
そういって、悠馬兄さんは笑った。
俺は疑わなかった。
悠馬兄さんがいれば全部うまくいく。
それが「世界の仕組み」だと思っていた。
その重さを・・俺は考えもしなかった。
AIアシスト作品です。




