第三部 第十三話 悠馬は、会見のあとの布団が逃げ場にならなかった
俺の人生詰んでる?!となった悠馬にノアが夜這いをかける回(違)
夜、自室。
結論から言うと。
僕の人生、もう詰んでないか?
そう思ったのは、会見が終わって、
シャワーも浴びて、あとは寝るだけ、
という段階だった。
ベットに入る。
天井を見る。
目を閉じる。
……眠れない。
「……」
会見は、問題なく終わった。
言葉も噛まなかった。
余計なことも言っていない。
記者の反応も、
概ね想定内。
むしろ、“よくやった”部類だ。
なのに。
「……これで一件落着、じゃないんだよな……」
頭の中で、今日のやり取りが再生される。
トップとしての発言。
期待される視線。
会見後に届いた、
次の案件の気配。
ーーもう一件。
早すぎる。
完全に、成功した人間の流れだ。
成功すると、仕事は減らない。
増える。
そして、断りづらくなる。
「……あ」
ふと気づく。
これ、僕が逃げられないやつだ。
布団の中で、ごろりと横を向く。
「……嫌々トップ、長期契約だな……」
誰に向けるでもなく、呟いた。
その瞬間。
――コンコン。
控えめなノック。
嫌な予感しかしない。
「……はい?」
ドアが、そっと開く。
「兄さん」
ノアだった。
パジャマ姿。完全にリラックス。
そして、距離が近い。
「……どうした」
「寝れない」
「それは知らん」
「兄さんも?」
「……」
答えないでいると、ノアは勝手に判断したらしい。
「やっぱり」
そう言って、部屋に入ってくる。
ベッドの脇まで来て、当然のように座った。
「会見、すごかった」
「……ありがとう」
「いや、すごすぎ」
ノアは、真顔で言う。
「俺、兄さんがあんな風に喋るの、初めて見た」
「前から見てただろ」
「違う」
首を振る。
「今日は、“前に立ってた”」
胸の奥が、きゅっとする。
「……やりたくてやってるわけじゃない」
ぽろっと、本音が出た。
ノアは、一瞬だけ目を瞬かせてから、にやっと笑う。
「知ってる」
即答。
「兄さん、嫌そうだった」
「……」
「でも」
ノアは続ける。
「逃げなかった」
それを言われると、弱い。
「……逃げられなかっただけだ」
「それ」
ノアは、楽しそうに言う。
「一番かっこいいやつ」
「褒めてないだろ」
「褒めてる」
言い切られる。
しばらく、沈黙。
ノアは、ベッドの縁に肘をついて、僕を見下ろしている。
「ねえ」
「なんだ」
「兄さんさ」
一拍。
「……無理してる?」
図星だった。
返事に、一瞬、間が空く。
「……してない、と言ったら嘘になる」
正直に言った。
ノアは、満足そうに頷く。
「よかった」
「何がだ」
「ちゃんと無理だって分かってるとこ」
意味が分からない。
「無理してるのに、無理だって分からない人、壊れるから」
……17歳の言うことか?
「兄さんは」
ノアは、少しだけ声を落とす。
「壊れる前に、俺に言っていい」
胸の奥で、何かが緩む。
「……君は、僕のストレス解消係じゃない」
「知ってる」
「じゃあ」
「好きなだけ」
さらっと言うな。
「……重い」
「愛が?」
「距離が」
ノアは笑った。
「じゃあ、今日はここまで」
そう言って、立ち上がる。
「兄さん」
「なんだ」
「人生、詰んでない」
「……根拠は?」
「俺がいる」
胸を張る。
「まだ17歳」
「未来の塊」
「しかも兄さん大好き」
やめてほしい。
色々と。
「……はいはい」
布団を被り直す。
「おやすみ」
「おやすみ」
ドアが閉まる。
部屋に、
本当に静けさが戻った。
「……」
さっきより、確かに息はしやすい。
布団の中で、目を閉じる。
ーーノアがいる。
それは、事実だ。
17歳。
距離感ゼロ。
将来の塊。
……大好き付き。
「……」
そこで、ふと我に返る。
「……いや」
小さく、声に出た。
「冷静に考えて」
天井を見る。
「この状況、君が原因じゃないよな」
ノアは、何もしていない。
噂を作ったわけでもない。
広めたわけでもない。
外交カードにしたわけでもない。
「……」
思考が、自然と一つの結論に辿り着く。
「……ってか」
「この状況、お前ら親子のせいでは?」
エドワード叔父上の顔が、脳裏に浮かぶ。
善意。
先回り。
余計な画策。
そして、それを止めきれなかった大人たち。
「……」
胃の奥が、じわりと重くなる。
さっきとは、別種の痛みだ。
「……明日、ちゃんと話そう」
誰に、とは言わない。
言わなくても、相手は決まっている。
布団を引き上げ、深く息を吐く。
人生は、やっぱり重たい。
でも。
原因が分かっている分、さっきよりは、少しだけマシだった。
「……詰んでない、けど」
眠気の底で、ぼんやりと思う。
「割と、面倒だな……」
そうしてようやく、僕は眠りに落ちた。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せます。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




