第三部 第五話 佐伯悠馬は、卒業し、そして誰も静かにしていない
逃げられない悠馬君。
卒業式は、驚くほど静かだった。
オックスフォードの中庭。
石畳。
黒いガウン。
鐘の音がきちんと終わりを告げる。
僕はれるに並びながら、ぼんやりと思っていた。
ーーーまだ、迷っている。
でも、同時にもう決めてもいる。
この二つが同時に存在できることを、初めて知った。
学位授与。
名前を呼ばれる。
「Saeki, Yuma」
立ち上がり、一歩前へ。
拍手。
それだけ。
人生が変わる瞬間にしては、ずいぶんあっさりしている。
席に戻ると視線を感じた。
教授
研究仲間
企業関係者
ーー値踏みだ。
今日を境に「学生」ではなくなる。
式が終わり、家族席を見る。
いる。
全員いる。
揃いすぎている。
ジェシカ叔母様
エドワード叔父上
父:拓海
母:菜摘
四人……。
嫌な予感しかない
だけどその時の僕はまだ知らなかった。
この四人が完全に同じ方向を向いているということを。
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~大人たちの内心(※悠馬は知らない)
・ジェシカの場合
(迷ってるわね)
遠目でもわかる。
あの歩き方。あの目線。
決め切っているのに決めていないときの顔。
(……でも)
ジェシカはすでにいくつかの連絡を終えていた。
アメリカの取締役会
ハミルトングループの中核
ーーーポストはあけてある。
名前は、まだ出していない。
出せば逃げ道が消える。
だから……「偶然空いている」
(卒業おめでとう)
(でも、逃げ道は用意していないわ)
・エドワードの場合
(……立派になった)
誇らしさは本物だ。
だが、感慨に浸っている暇なない。
エドワードは式ノアkダニすでに数通のメールを送っていた。
旧知の貴族
財界の重鎮
政治関係者
ーーー「佐伯悠馬」
ーーー「帰還予定」
情報はすこしづつ流す。
噂という織りを外側から作る。
(外に出ても、居場所は全部こちら側だ)
逃がさない。静かに。
・拓海の場合
(……やっぱりな)
拓海は、息子の姿を見て確信していた。
あいつは自分から責任を拾う。
逃げない。
でもーー逃げ道があれば、一度は考えてしまう。
だから、拓海は逆のことをした。
逃げ道を”正解”として残す。
警察時代の古い伝手
海外の安全保障関係
ーー「もし出たいならこういう道もある」
そう”教えておく”。
(……でも、選ぶのはあいつだ)
逃げ道は塞がない。
だが、選んだあとは逃がさない。
・菜摘の場合
(全員、派手にやってるわね)
内心、ため息。
菜摘がやっているのは
一番地味で
一番確実なこと。
契約書
数字
生活基盤
悠馬が戻った場合の日常を完璧に整える。
部屋
秘書
権限
”戻ったら何も困らない”
それは最大の囲い込みだ。
(逃げる理由を一つずつ消す)
母親の顔で、最強の策。
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そして、悠馬は何も知らない
式が終わり、
写真を撮り、
祝福を受ける。
僕は少し疲れていた。
「……やっと終わった」
独り言。
背負っていたものが急に重くなる。
でも、気づいていない。
自分の周囲で非方向から
「完璧な包囲網」が、完成しつつあることに。
僕はまだ迷っている。
でも、もう決めてもいる。
学位を示す紙をじっと見ながら
思う
ーーー帰る
だけど、その時僕はまだ知らなかった。
「ああは言ったが逃がす気は誰一人いない。」
と、いう、大人四名の完全な合意がすでに成立していたことを。
卒業式は静かに終わった。
しかし。
包囲はもう始まっている。
感想をいただけると嬉しいです。
※現時点で多分半分くらいです。
一応完結分までは完了してますのでよろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




