第二部 第十二話 佐伯悠馬の問いは、まだ屋敷に届かないーーーーはずだった
裏設定
ノアはお父さん(エドさん)譲りの美少年です。歩き始めたころから悠馬の父さんの拓海さんと強ママジェシカさんに鍛えられて、思考が脳筋ですが一見そう見えません。ママがガッチリ体系で彼はそこも引き継いでいます。悠馬君はじつはちょっと羨ましいと思っています。
オックスフォードの研究室は、夜になると音が消える。
紙の擦れる音と、ペン先の微かな響きだけ。
僕は、ホワイトボードの前に立っていた。
そこに書かれているのは、数式でも、組織図でもない。
「人は何故”必要とされ続ける役割”を手放せないのか」
研究テーマは、制度論の皮をかぶっていた。
でも、中身は明らかに自分自身だった。
・役割が固定化する瞬間
・「優秀さ」が責任に代わる構造
・集団が、無意識に一人へ依存する理由
・善意が、支配に変質する境界
「……再現性があるな」
僕は独り言を呟いた。
理論として成立してしまう……。
それが、少し怖かった。
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Ⅰ:研究は、評価される
数週間後
研究発表の場で教授が言った。
「これは、政治論でもあり、凛理論でもある。
だが何より”実例が鮮明”すぎる」
周囲が笑う。
冗談として受け取る。
僕も軽く微笑んだ。
真実は、”言わない”。
「将来、運営に関わる気は?」
そう聞かれ、僕は一瞬だけ黙った。
「……今は、研究者です」
それが…精一杯だった。
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Ⅱ:その論文は、静かにわたる
同じ頃
ハミルトン邸
執事長が、一つの資料をジェシカに渡していた。
「オックスフォードからです」
「……悠馬?」
名前を見ただけでジェシカは察した。
目を通した瞬間、彼女は息を止める。
「……ああ」
短い声。
それだけで充分だった。
エドワードも、あとから読む。
読み終えた後、何も言わない。
ただ、指で机をたたいた。
「……なるほど」
ようやく出た声。
「彼はもう”戻らない前提”で書いてるな。
ジェシカは首を振った。
「違うわ。これは……
戻るための理論よ」
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Ⅲ:屋敷で起きた、最初の変化
その日から会議の空気が少し変わった。
「この判断、一人によりすぎていない?」
「”止め役”を固定していない?」
誰も、悠馬の名前は出さない。
しかし、全員が同じ文章を思い出している。
ノアも、資料を読んでいた。
難しい。
よく理解もできない。
でも、胸に刺さる。
「……兄さん、これ俺のことも書いてるだろ」
……誰にも聞こえない声。
ノアは、初めて「自分が守られていた構造」を理解し始めていた。
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Ⅳ:悠馬は、まだ知らない
オックスフォード
悠馬は研究室で新しいテーマを検討していた。
自分の論文がどこまで届いているかなど知らないで。
彼は、ただ思っていた。
『もし戻るなら、同じ役割では戻らない。
同じ地獄にはならない』
それだけは譲れない。
窓の外
鐘がなる。
学期がまた、一つ進む。
佐伯悠馬の研究は、まだ学術の形をしている。
でも、それはすでに屋敷の中で”思想”として動き始めていた。
悠馬が卒業し、再びハミルトン家に足を踏み入れるとき。
迎えるのは”彼が設計した世界”
それを彼自身がどう評価するのかーーーー
その答えは
まだ……先になる。
感想をいただけると嬉しいです。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




