幕間 ジェシカは、王(悠馬)不在の家を冷静に見ていた
ジェシカは見た!の回
Ⅰ:ジェシカは、王(悠馬)不在の家を冷静に見ていた
悠馬が屋敷を離れたのは、大学入学準備のためだった。
大学近郊の部屋の確認、書類、生活環境。
数日で戻り、そのあとはパブリックスクールの卒業式。
ーーーたったそれだけ。
なのに、屋敷の空気は、目に見えないところで微妙に歪み始めていた。
ジェシカは、それをすぐに察知した。
彼女は家を「感情」でみない。”機能”で見る。
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初日
小さな遅延が起きた。
決済が一件、保留のまま止まった。
「……あら?」
ジェシカは紅茶を飲みながら、執事長に確認する。
「悠馬は?」
「現在、ご不在です」
それだけで、理由は充分だった。
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二日目
ノアが、少し荒れた。
訓練のペースを上げ、疲労を無視する。
止める人間はいる。
でも……
『納得させる人間がいない』
結果、小さな衝突。
誰も怪我はしない。
だけど、空気が硬くなる。
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三日目
エドワードが、判断を先延ばしにした。
珍しい事だった。
彼は本来、決断の人だ。
だが、、、”調整役がいない決断”は、重い。
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「なるほど」
ジェシカは心の中で淡々と評価した。
この家は、壊れてはいない。
だが、”滑らかに動かなくなっている”
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その夜
小さな”崩壊”が起きた。
凛と蘭の事業案件で、判断が割れた。
通常なら、悠馬が即座に線を引く。
今回は、、、誰も引かない。
「……やる?」
「……様子見る?」
結論が出ない。
結果、先方に曖昧な返事を送り、信頼を一段階落とした。
『致命傷ではない』
だが、確実な失点だった。
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ジェシカはその報告を聞いて初めて頷いた。
「これが、”王不在”ね」
彼女は誰も責めなかった。
怒らなかった。
ただ、夜の書斎で一人考えていた。
悠馬がいるとき、この家では誰も無理をしない。
暴走もしない。
だけどーーー
『彼がいないと全員が少しづつ無理をする』
それが、最大の問題だった。
「……重すぎる役割、ね」
ジェシカは正直にそう思った。
十八歳の青年に背負わせるには。
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翌朝
ノアがポツリと言った。
「……兄さん、まだ帰らない?」
誰も答えなかった。
答えられなかった。
その瞬間、ジェシカは確認した。
この家は『悠馬を”支え”にしてしまっている』
それは、
「王」を持つ国ではない。
「王」によりかかる国だ。
数日後、悠馬は戻る。
「一時的」に。
だが、彼はいずれここを離れる。
それは確定している未来だ。
この家は変えなければならない。
悠馬が戻ってくる前に。
そして、、、
彼がいなくても「回る」ように。
書斎の明かりの下で、彼女は小さく笑った。
「……面白くなってきたわ」
それは、不安でも、諦めでもない
「経営者の顔」だった。
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この数日間の小さな崩壊は前兆にすぎない。
本当の試練は、悠馬が完全に家を離れた後にくる。
それを、ジェシカは誰よりも正確に理解していた。
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幕間はもう一つ、そのあと第二部です
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




