幕間 佐伯悠馬の、平穏すぎる寮生活
悠馬君の穏やかな日々
パブリックスクールの朝は、驚くほど規則正しい。
起床のベル。
身支度。
朝食。
授業。
誰も怒鳴らない。
誰も暴れない。
誰も「ちょっといい?」と深刻な顔で近づいてこない。
入学当初、僕はすこし身構えていた。
集団生活。年齢も背景も違う生徒たち。
ーーまた、調整役になるのではないか。
そんな予感は、数週間で裏切られた。
「悠馬、次の授業どこだっけ」
「先輩、これってどうすればいい?」
聞かれることはある。
でもそれは、”必要な分”だけだった。
頼りきられることも、背負わされることもない。
答えたら、相手は自分で歩いていく。
その距離感が心地よかった。
成績は自然と上位だった。
努力はしているが、無理はしていない。
評価も、過剰ではない。
「模範的だね」
教師の言葉は、期待ではなく「事実の確認」だった。
夕方、寮の中庭で本を読む。
誰かが走り回ることも、止める必要もない。
風が吹いてページがめくれる。
それだけで時間が過ぎてゆく。
夜。
自室で机に向かい、ランプをつける。
遠くで誰かが笑っている。
それは自分が責任を負わなくていい笑い声だった。
ふと、幼いころを思い出す。
怒号
衝突
判断
制御
ーーあれは、なんだったんだろう
ここでは誰も僕を必要としていない。
それが、少しだけ寂しくて、とてもありがたかった。
「……このままがいいな」
小さく呟く。
誰にも聞かれない。
否定も、同意もされない。
監督生になるころには、僕は完全にこの場所に溶け込んでいた。
指示は出すが、命令はしない。
助言はするが、判断はゆだねる。
だから、僕の周りはいつも静かだった。
夜、ベットに横になる。
胃は、痛くない。
それが何よりの証拠だった。
僕は知らなかった。
この平穏が、どれほど基調で、どれほど短いかを。
ただ、心のどこかで思っていた。
ーー守りたい。この静けさを。
それが、後にどれほど困難な願いになるか。
この時の僕はまだ知らなかった。
次も幕間小話
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AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




