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第八部 第十話 ノア、言葉になる前の場所

拓海は悠馬だけでなく、ノアの「お父さん」とも言えるかもね。

拓海に声をかけられたのは、

 現場から戻る途中だった。


「……お前、今日はまっすぐ帰るか?」


何気ない口調。

振り返ると、拓海はコートを羽織りながら、

ちらっとこちらを見ている。


「いや、別に予定は……」

「じゃあ、一杯だけ行くか」


“相談しよう”でも

“話がある”でもない。


ただの、帰り道の延長みたいな誘い。


ノアは、一瞬だけ迷ってから頷いた。


「……はい」


店は、拓海がよく使う小さなバーだった。


静かで、人も少ない。

カウンターに並んで座る。


拓海は、何も聞かない。

酒を頼み、グラスを傾けるだけ。


それが、逆にきつかった。


「……」


ノアは、グラスの中身を見つめる。

言葉が、喉まで来ている。


でも、どう切り出せばいいのか分からない。


「……」


拓海が、先に口を開いた。


「お前さ」


ノアは、びくっと肩を揺らした。


「最近、声が少ない」


責める調子じゃない。

確認するみたいな、淡々とした言い方。


「……」


「前は、分からんことをすぐ聞いてきた。

今は、黙って飲み込んでる」


ノアは、目を伏せた。


「……前に立ってるから」


ぽつりと、こぼれた。


「?」


「俺、前に立ってる側だから……

簡単に弱いこと、言えないなって」


拓海は、小さく息を吐いた。


「……そうか」


それだけ。

否定も、肯定もない。


しばらく、沈黙が続く。


ノアは、思い切って口を開いた。


「……今日」


「現場で、言われたんです」


「“ノアだけじゃ足りない”って」


拓海は、眉一つ動かさなかった。


「……俺」


ノアの声が、少し震える。


「悪い判断したわけじゃない」


「むしろ、褒められた。でも……」


言葉を探す。


「兄さんがいない前提で進めていいのか、って」


拓海は、グラスを置いた。


「……それで?」

「……否定できませんでした」


ノアは、苦笑した。


「だって、事実だから」


「兄さんが見てるもの、俺、全部は見えてない」


「それを、分かってるのに」


一拍。


「……俺、前に立ってる顔してたんですよね」


拓海は、少しだけ目を細めた。


「してたな」


即答だった。


ノアは、ぎゅっと唇を噛む。


「……だから」


「俺、前に余計なこと言いました」


「分からないのは悪くないけど、

 分かろうとしないのは違う、って」


拓海は、しばらく黙ったあと

言った。


「……それ、殴った時と同じだな」


ノアは、はっと顔を上げる。


「切り捨てられる側だと思った瞬間、

手が出た」


「今は、切り捨てる側に立ってる」


静かな声。


逃げ場がない。


「……」


「どっちも、“守ろう”としてる」


「でも、やり方が分からない」


拓海は、ノアを見た。


「お前、間違ってない。でも、まだ足りない」


その言葉に、ノアはゆっくり息を吐いた。


「……ですよね」

「焦るな」


拓海は、短く言う。


「悠馬は、お前が思ってる以上に強い。

 だから、今は並べなくていい」


一拍。


「追いつこうとするな」

「……」

「“隣に立つ”ってのはな、

  同じ場所に立つことじゃない」

「違う位置から、

 同じ方向を見ることだ」


ノアは、その言葉を噛みしめた。


「……俺、言えなかったんです。兄さんに、、

   足りないって言われたこと」


拓海は、静かに頷いた。


「今は、それでいい。

  言うタイミングは、来る」


ノアは、グラスを持ち上げた。

少しだけ、肩の力が抜けた気がした。


それでも、胸の奥は重い。

前に立つ、ということは。

誰かの代わりに矢面に立つ、ということでもある。


それを、ようやく理解し始めていた。



感想をいただけると嬉しいです。

※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。

よろしければ見てください。


AIアシスト作品です。


僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。

気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。

これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。

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