第八部 第五話 悠馬、 一体お前はどうしてこう毎回毎回……
悠馬君?そこはもう怒っていいと思うよ?
最初に思ったのは、”頭が痛い”、だった。
次に思ったのは、”胃が痛い”。
そして最後に、ようやく言語化できた。
「……何を、してくれているんだ」
声に出したが、誰に向けたものでもない。
報告書は、簡潔だった。
要点も整理されている。
事実関係も、間違っていない。
ーーーただし、
”余計な一言”を除けば。
「“分からない側が悪いと言われた気がした”?」
紙を置き、椅子に深く座り直す。
理解できない。
いや、”理解したくない”。
「……違うだろ」
ノアは、そんなことを言う人間じゃない。
分からない人間を責めるタイプじゃない。
少なくとも、僕はそう思っている。
思っている、が。
ーーー現実は、そう受け取られた。
「……」
指で眉間を押さえる。
一回、深呼吸。
状況を整理しよう。
ノアは、僕を庇おうとした。
それは、疑いようがない。
現場で広がり始めた
「佐伯は冷たい」
「佐伯は遠い」
という評価を、是正しようとした。
だから、
「見えている範囲が違う」
と言った。
それ自体は、事実だ。
問題は、その次。
「分からないのは悪くない。
でも、分かろうとしないのは違う」
ーーーそこだ。
そこが、『刃になった』
「……ああ」
ようやく、繋がった。
ノアは、“正しい説明”をしようとした。
でも、現場が欲しかったのは”正しさじゃなかった”。
安心だ。
置いていかれない、という感覚。
「……」
椅子の背に、深くもたれかかる。
頭の中で、別の声が響く。
『兄さん、
みんなが同じように見えてるわけじゃない。』
以前、ノアが言った言葉だ。
その時、僕はこう返した。
「だから説明する」
正しい。論理としては。
でも――
”それだけでは足りなかった”。
「……」
小さく、笑いが漏れる。
「一体お前はどうしてこう毎回毎回……」
言いかけて、止まる。
いや、違う。
「……一体、僕は何を見落としていた?」
ノアが、悪いわけじゃない。
愚かでもない。
ただ、僕のやり方を
“正しいもの”
としてそのまま使おうとしただけだ。
そしてそれは、
”人を傷つける形”
で再生された。
「……」
机に突っ伏す。
胃が、きり、と鳴った。
「……僕、お前に悪いことでもしたか?」
答えは、ない。
あるとすれば、たった一つ。
”見えている世界を、そのまま渡してしまった”
こと。
翻訳せずに。速度を落とさずに。
“普通だ”
と思ったまま。
「……ばかなのは、僕か」
死ぬほど疲れている。
感情が、追いつかない。
それでも、結論は一つだけはっきりしていた。
「……これは、仕事じゃない」
合理でも、
配置でも、
判断でもない。
”人の受け取り方”
の問題だ。
そしてそれは、
”処理できない”。
椅子に戻り、天井を見上げる。
「……なんでこんなに難しいんだ」
誰に向けた言葉でもない。
でも、心の奥で、確かに思った。
”このままでは、ノアを壊す。”
そして。
このままでは、
”僕も、理解されないまま立ち続ける”。
それだけは、はっきりと分かってしまった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




