第八話部 第四話 ノア、善意は、時に刃になる
やらかし担当:ノア君健在。
~ノア・ハミルトン~
空気が、おかしい。
そう思ったのは、昼の会議が終わったあとだった。
誰も怒っていない。
誰も文句を言っていない。
でも、言葉が妙に選ばれている。
「……現場判断としては、今の形が一番効率的ですね」
「そうですね。ノア様が前に立たれているので」
その言い方に、ノアは引っかかった。
前に立つ。
それは、悪いことじゃない。
でもーー
”誰かが下がっている、という意味にも聞こえる。”
会議が終わり、廊下に出たところで、
数人が雑談を始めた。
「佐伯さん、最近あんまり出てこないよね」
「まあ、今はノア様がいるし」
「役割分担、ってやつじゃない?」
軽い口調。
悪意はない。
でも、
ノアの胸の奥が、少しだけざわついた。
ーーーそれ、兄さんが“いらない”って意味じゃないか?
ノアは、何も言わずにその場を離れた。
考える。
どう言えばいい?
どう説明すれば、誤解が解ける?
兄さんは、上に立っている。
見ている範囲が違う。
だから、判断が速い。
だから、冷たく見えるだけだ。
それを、ちゃんと伝えれば――
「……あ」
ノアは、ある現場担当者のもとへ向かった。
以前から、不安を口にしていた人物だ。
「ちょっと、いいですか」
「はい?」
「最近、佐伯の判断について不安があるって聞いて」
相手は、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……まあ、不安というか」
「速すぎる、というか」
「ついていけない、というか」
ノアは、頷いた。
「それは、見えている範囲が違うからです」
相手が、首を傾げる。
「……え?」
「佐伯は、全体を同時に見ています」
「だから、今見えていない部分も判断に含めている」
「つまり」
一拍。
「”分からないのは、悪いことじゃない”」
ここまでは、正しかった。
ノアは、続けてしまった。
「でも、分かろうとしないのは違うと思うんです」
空気が、止まった。
相手の表情が、硬くなる。
「……それは」
「いや、責めているわけじゃなくて……
ただ、努力の方向が――」
ノアは、言葉を探した。
だが、もう遅かった。
「……つまり」
相手が、低い声で言う。
「分からない側が悪い、ってことですか?」
「ち、違います!」
ノアは、即座に否定した。
「そういう意味じゃ――」
「でも、そう聞こえました」
その場にいた別の人間が、静かに言った。
ノアは、言葉を失った。
違う。そうじゃない。
言いたかったのは、
”兄さんは切り捨てていない”
ということなのに。
気づいた時には、空気が変わっていた。
ノアは、その場を離れた。
歩きながら、胸が苦しくなる。
「……やった」
やってしまった。
善意で。
正しさで。
説明のつもりで。
でも、結果としてーーー”刃になった。”
その夜。
ノアは、一人で考え続けた。
兄さんなら、どう言っただろう。
きっと、
もっと整理して、
もっと静かに、
もっと遠回りした。
でもーーー
それをできるのは、兄さんだからだ。
「……俺、また失敗した」
守ろうとして、傷つけた。
橋を渡らせるつもりで、橋を揺らした。
このことを、兄さんは
まだ知らない。
知らないほうが、いいのか。
それとも……伝えるべきなのか。
ノアは、答えを出せずに、ただ天井を見つめていた。
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※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




