第八部 第三話 切り分けられる、ということ
悠馬君は人の事を結構気にかけるやさしい子なんですけどねぇ…。素ッと日本で普通に暮らしてたら小児科医とかやってそう
それは、
特別な会議でも、正式な評価の場でもなかった。
ただの、雑談だった。
「最近、現場まわり早くない?」
「うん。ノア様が前に立つようになってから、
意思決定が現場寄りになった気がする」
「若いのに、よく拾ってるよね」
ロンドンのオフィス。昼前のコーヒースペース。
書類を持って通りかかった悠馬は、
足を止めるつもりはなかった。
しかし――
名前が出た。
「……佐伯さんは?」
「佐伯様?あの人は、判断が速すぎる」
声に、悪意はない。
むしろ、感心している調子だった。
「正しいんだけどさ、正しすぎるんだよね」
「分かる。説明もちゃんとしてるし、筋も通ってる」
「でも、ついていけない人が出る」
悠馬は、歩みを止めないまま聞いていた。
聞こうとしていない。
だが、聞こえてしまう。
「ノア様が間に立つと、その辺が柔らぐんだよ」
「クッション役ってやつ?」
「そうそう。現場的には助かる」
別の声が続けた。
「役割分担としては、今が一番いい形じゃない?」
「佐伯さんは上、ノア様は前」
「理想的だよ」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
沈黙が、肯定になる。
悠馬は、何も言わずにその場を通り過ぎた。
胸の奥で、何かが小さく引っかかる。
ーーー理想的。
それは、褒め言葉だ。
配置としても、
評価としても、
間違っていない。
だからこそ、反論の余地がない。
デスクに戻り、書類を開く。
内容は頭に入る。判断もできる。
だが、先ほどの会話が、
何度も脳裏をよぎった。
「……ついていけない人が出る、か」
それは、以前から分かっていたことだ。
誰もが、同じ速度で理解できるわけじゃない。
だから説明をする。
だから段階を踏む。
やってきた。
やっている。
それでも、“遠い”と言われる。
悠馬は、指先でペンを回した。
自分は、切り捨てているつもりはない。
理解できない人間を、否定した覚えもない。
分からないなら、分かるまで説明すればいい。
ーーーそれの、何が冷たい?
答えは、出ない。
午後。
別のフロアで、また声が聞こえた。
「佐伯さんって、感情で動かないよね」
「ロボットみたい、って意味じゃないよ?」
「むしろ優秀すぎる」
笑い声。
冗談のトーン。
誰も、傷つけるつもりはない。
でも、言葉は積み重なる。
“冷静”
“合理的”
“感情が見えない”
そして。
「だから、ノア様が必要なんだよ」
その一言が、胸に落ちた。
必要。
ーーー自分は、何のためにここにいる?
最終判断のためか。
全体を見るためか。
それは、今も変わっていない。
変わっていない、はずだ。
それなのに。
評価は、少しずつ、”切り分けられていく”。
善意で。
合理性で。
雑談という名の、
無責任さで。
悠馬は、ゆっくりと目を閉じた。
「……伝えたことは、間違っていない」
そう、自分に言い聞かせる。
だが同時に、初めて思った。
”届いたものは、自分の意図と同じだったのか?”
その答えを、この場で持っている人間は、
一人もいなかった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




