第七部 第十一話 悠馬、帰国後/噂は、映像を伴って戻ってくる
はぁはぁ、、、次は幕間です
帰国した翌日は、
思ったよりも普通だった。
時差はある。
身体は重い。
だが、
日本で感じていた違和感は、
業務に戻ることで
一旦、棚に上げられる程度のものだった。
ノアも、いつも通りだ。
「兄さん、今日から通常?」
「そうだ」
「じゃあ俺、午後は現場に戻る」
「了解」
それで会話は終わる。
いつもの英国だ。
……はずだった。
午前中の会議を終え、端末を確認した時、
未読の社内連絡が妙に溜まっていることに気づいた。
人事。
広報。
海外事業部。
どれも緊急ではない。
でも、内容が揃っている。
ーーー質問。
最初の一通を開く。
> 日本視察に関する社内共有について
> 一部現場より確認要請あり
嫌な予感がした。
読み進める。
> 今回の担当者二名は
> 「兄弟」という説明だったが、
> 人種的に見て違和感がある
>
> 実際の関係性について
> 社内で憶測が出始めている
……憶測。
次のメール。
> 特に女性社員の間で
> 「ただならぬ仲の兄弟なのでは」
> という噂が見られる
>
> 対外的リスクがないか確認願う
画面を閉じた。
いや、正確には閉じきれなかった。
思考が、一拍遅れる。
日本。
写真。
動画。
距離感。
凛と蘭。
ーーーやったな。
その時、社内共有の別リンクが届いた。
閲覧制限付き。
参考資料。
タイトルは、やけに穏やかだった。
> 日本視察・記録映像(内部共有)
再生する。
最初は、想定通りの映像だった。
現場を歩くノア。
説明するノア。
真剣な表情。
だが、次の瞬間。
自分が映った。
ノアの横に立つ自分が、”はっきりと、笑っている。”
「……?」
声は出なかった。
見覚えはある。
確かに、その瞬間はあった。
だが、切り取られた映像の中の自分は、
普段より明らかに柔らかい。
肩の力が抜け、
目線も低い。
次のカット。
空港。
ノアの肩に、軽く手を置く自分。
さらに。
休日。
人混みの中で、ノアの後ろを歩く自分。
共通点は、”一つだけ”だ。
ーーーすべて、ノアの隣。
コメント欄が、静かに並んでいる。
> ・思ってたより表情ある
> ・ノアの前だけ顔違う
> ・兄弟って言ってるけど距離感近くない?
> ・仕事の時と別人じゃない?
胃が、はっきりと痛んだ。
これは、悪意ではない。
凛蘭のやり方は分かっている。
冷たい。
切り捨てる。
人間味がない。
その像を、壊すための“上書き”。
だが。
壊した結果、別の像が固定され始めていた。
「ノア限定で人間になる悠馬」
その時、ドアがノックされた。
「兄さん」
ノアだった。
「……これ、見た?」
同じ映像を、端末で示される。
「見た」
短く答える。
ノアは、困ったように眉を寄せた。
「俺、そんなつもりじゃ……」
「分かっている」
即答だった。
「これは、お前の問題じゃない」
だが、ノアは納得していない。
「日本でさ俺が前に立って、
兄さんが後ろにいて」
「それで、こうなるとは思わなかった」
それは、正しい。
誰も、こうなるとは思っていなかった。
ノアが、小さく言った。
「……俺、邪魔してる?」
その問いに、即答できなかった。
邪魔ではない。
だが、守れてもいない。
ただ、並んでいただけだ。
それが、こう見える。
悠馬は、深く息を吸った。
これは、もう仕事の話ではない。
噂の話でもない。
”人の距離の話”だ。
「一つだけ、はっきりさせる」
そう前置きして言う。
「俺は、お前の前でだけ、人間になっているわけじゃない」
ノアが、こちらを見る。
「ただ、お前の前では、考えなくていい瞬間がある」
それが、誤解の正体だった。
ノアは、しばらく黙っていた。
「……じゃあ」
小さく言う。
「俺が前に立つ時も兄さんが
“考えなくていい”時間、作れるようにする」
その言葉に、胸の奥が、わずかに軽くなる。
でも。
噂は、もう走り始めている。
映像は、英国内で広がっている。
善意で。
好奇心で。
無責任に。
日本で持ち帰った
言葉にならなかった違和感は、
形を持って、
戻ってきた。
しかも、自分の意思とは無関係に。
だけど。
今回は、一人ではない。
それだけが、以前との決定的な違いだった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




