第七部 第七話 日本視察・中盤/その夜
次は幕間!
~歪んだ伝達~
会議が終わった後、現場の空気は一見、落ち着いていた。
だが、その日のうちに、言葉は別の形で動き始める。
発端は、休憩室だった。
「……佐伯さん、今日は結構はっきり言ってましたよね」
「うん、“丸投げじゃない”って」
「つまりさ」
一拍。
「現場判断が遅いと困る、ってことじゃない?」
誰も悪意はない。ただ、短く要約する。
「ノアさんが前に立ってるけど」
「最終的には佐伯さんの判断待ち、って感じだよね」
別の人間が、頷く。
「だから、ああやって線引きしたんじゃないかな」
「“ここまでは任せるけど、それ以上は自分が見る”みたいな」
言葉は、少しずつ削られる。
ニュアンスが消える。
“今日は”
“意図している姿ではない”
“現場を尊重するとは何か”
そういった前提が、省かれていく。
「要するに」
誰かが、まとめた。
「佐伯さん、“ついてこられないなら判断しないでほしい”ってことじゃない?」
その場に、沈黙が落ちる。
否定は、出なかった。
なぜなら、完全な誤解とも言えないからだ。
こうして。
悠馬の言葉は、
> 「丸投げではない」
> 「判断はしている」
から、
> 「判断は佐伯さんだけがする」
> 「現場はついてくるべき」
へと、静かに形を変えた。
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~ノア~
それを聞いたのは、翌朝だった。
現場入りの前。控室。
「……昨日の話ですけど」
声をかけられる。
「佐伯さん、結構シビアですよね」
ノアは、一瞬で理解した。
ーーー歪んでいる。
「どういう意味ですか?」
問い返す。
「いや、“判断は自分がするから現場は迷うな”って」
「遅い判断は、評価しない、みたいな……」
胸の奥が、ひやりとした。
それは、兄さんの言葉ではない。
兄さんは、そんな言い方はしない。
しかし。
”そう聞こえてしまった”のも、事実だ。
ノアは、一度、息を吸った。
ここで否定すれば、昨日と同じになる。
言葉が足りず、
空気が止まり、
余計な誤解を生む。
だから。
ノアは、違うやり方を選んだ。
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~ 公開~
全体ミーティングの冒頭。
ノアは、予定にない発言をした。
「少し、確認させてください」
場の視線が集まる。
「昨日、佐伯が言ったことについて」
悠馬が、驚いたようにこちらを見る。
だが、止めなかった。
ノアは、続ける。
「“判断は佐伯がする”と受け取った人がいるようですが」
一拍。
「それは、違います」
はっきりした声。
「判断を一人で抱え込むためにここにいるんじゃない」
「俺が前に立つのは、責任を分けるためです」
現場が、静まる。
「佐伯は、“速さ”を求めているんじゃない」
「“理解”を求めている」
悠馬の視線が、ノアに向く。
だが、ノアはそちらを見ない。
現場を見る。
「分からないなら、聞いていい」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「ただ、聞く前に投げないでほしい」
空気が、ゆっくりと動き出す。
「それだけです」
短く締めた。
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~悠馬~
会議が終わった後、ノアを呼び止めた。
「……お前、勝手に言うなとは言わない」
一拍。
「でも、公に言うなら、覚悟がいる」
ノアは、頷いた。
「分かってる。俺、逃げなかった」
その言葉に、返す言葉が見つからなかった。
歪んだものは、完全には戻らない。
しかし。
”上書きはされた。”
少なくとも、“怪物”になる道からは、一歩外れた。
それだけで、十分だった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




