第七部 第六話 悠馬・ノア、同日/日本視察・中盤
最近地味に見ていただいてる方が出てきたみたいでうれしいです。こんな地味な話を読んでくれてありがとうございます(つд⊂)
~ノア~
今日は、何も言わなかった。
言えなかった、の方が正しい。
会議は滞りなく進んだ。
予定通り。
問題なし。
現場の反応も、悪くない。
「ノアさん、判断が早いですね」
「若いのに、すごい」
褒め言葉だ。分かっている。
でも。
その言葉の裏に、兄さんの存在が
すっぽり抜け落ちていることに、
気づいてしまった。
以前なら、
ここで言っていた。
「兄さんが後ろで見てくれてます。」
「俺一人の判断じゃないです。」
でも、前にそれをやって、どうなったかを思い出す。
空気が止まった。
困った顔をされた。
「謙遜」として流された。
結果、余計な噂が増えた。
だから今日は、黙った。
黙るのが、一番マシだと思った。
兄さんの横顔を盗み見る。
落ち着いている。いつも通りだ。
ーーー何も気づいていない?
いや、兄さんが気づかないはずがない。
分かっているから、何も言わないのだ。
そう思うと、余計に言えなくなった。
俺が言えば、また何かを壊す。
なら、何も言わない方がいい。
そうやって、声を拾うことを、自分からやめた。
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~悠馬~
会議が終わった後、数人に声をかけられた。
「佐伯さんは、本当に落ち着いていますね」
「現場を信頼してくださっているのが分かります」
評価としては、悪くない。
でも。
その言葉のどれにも、微妙なズレがあった。
信頼しているのではない。
今日は、任せているだけだ。
判断していないのではない。
今は、保留しているだけだ。
だが、その“だけ”は、説明されなければ伝わらない。
ノアの方を見る。
今日は、何も言っていない。
拾おうとしていない。
ーーーああ。
そこで、ようやく理解する。
ノアは、言えなくなっている。
自分のせいだ。
前に、「今は言うな」と止めた。
正論だった。だが、結果として、ノアの口を塞いだ。
だから今、誤解は誰にも拾われず、静かに固まり始めている。
休憩時間。
現場責任者の一人が、冗談めかして言った。
「佐伯さんって、判断を全部ノアさんに任せてるんですよね」
笑顔。
悪意はない。
だが、ここで否定しなければ、それは“事実”になる。
ノアを見る。
何も言わない。言えない。
だから。
「違います」
自分の声が、少しだけ低く響いた。
全員の視線が、こちらに向く。
「今日は、任せています。
ですが、判断していないわけではありません」
一拍。
「私が意図している姿は、“丸投げ”ではない」
空気が、わずかに変わる。
責める口調ではない。
でも、定義ははっきりしている。
「現場を尊重する、というのは、考えないことではありません」
誰も、反論しなかった。
ノアが、驚いたようにこちらを見る。
その視線に、小さく頷く。
ーーー大丈夫だ。
今日は、俺が言う。
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~ ノア~
兄さんが、前に出た。
声は、静かだった。
でも、はっきりしていた。
それを見て、胸の奥が少し痛む。
俺が、言うべきだった。
拾うべきだった。
でも、言えなかった。
怖かった。
自分の言葉が、また誰かを傷つけるのが。
兄さんは、それを引き受けた。
『この状態を、ずっと一人でやっていたのか』
……まただ
そう思うと、胸が少し痛む。
今日は、橋を渡れなかった。
だから、兄さんが代わりに渡った。
それだけのことだ。
でも。
次は、俺が渡らないといけない。
そう、はっきり分かった。
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~悠馬~
会議が終わり、廊下を歩く。
ノアが、少し遅れて隣に来た。
「……兄さん」
「何だ」
「さっきの」
「今はいい」
短くそう言った。
ノアは、それ以上言わなかった。
言わせなかった。
これは、叱る場面ではない。
ただ、役割が入れ替わっただけだ。
今日は、俺が言う側。
ノアは、黙る側。
それで、いい。
でも、いつまでもは続かない。
このままでは、また歪む。
それだけは、分かっている。
ーーー次は。
次は、ノアに渡さなければならない。
そうでなければ、並べない。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




