第九話 ノア・ハミルトンは、名前のない感情を知った
ノアのジェラシー。
ノア君、君は見た目は爽やか王子様だから目立つと思うよ?
俺が十三歳で学校に入った日、悠馬兄さんは十八歳だった。
悠馬兄さんは、同じ制服なのにまるで違う。
立ち方も、話し方も、周囲の空気の動き方も。
ーーー最上級生。
それが「佐伯悠馬」だった。
「こちらが本校の監督生だ」
教師がそう紹介すると、周囲が一瞬静かになった。
「何か困ったことがあれば、彼に相談するといい」
その言葉に、何人もの生徒が小さく頷く。
当たり前のように。
俺は、少し離れたところでそれを見ていた。
悠馬兄さんは穏やかに笑っていた。
昔と変わらない。落ち着いていて、余裕があって、「頼られる」顔。
校内を案内されている途中、悠馬兄さんの後輩が声をかけてきた。
「先輩、これってどうすれば…」
「ああ、大丈夫。それはね…」
説明は簡潔で無駄がない。相手は安心してすぐに動く。
その繰り返し。
気づけば人が集まっている。
誰かが困れば、自然に悠馬兄さんの所に行く。教師も何も言わない。
ーー信頼されている。
それが、空気みたいにそこにあった。
胸の奥が少しだけ、ざわついた。理由は…わからない。
ただ、面白くなかった。
「ノア」
声をかけられて振り返る。
悠馬兄さんだった。
「緊張してる?」
「…別に?」
そうこたえたけど、嘘だった。
でも、それを見抜かれたくなくて、目をそらした。
寮に入ってからも同じだった。
廊下で会えば、だれかが挨拶する。
「お疲れ様です!佐伯先輩」
「ありがとうございます!悠馬先輩」
それを見かけるたびに、胸の奥が少しづつ重くなる。
夜、ベットに横になって、天井を見る。
俺は、ここに来た。自分の足で。
それなのに、、、気づけばまた背中を追いかけている。
屋敷の中ではそれでよかった。悠馬兄さんが前にいて、俺が動く。
考えなくていい。迷わなくていい。
でも、ここは違う。
翌日、訓練場で俺はすこしだけ無理をした。
走る、飛ぶ、力を出す。
視線を集めたかった。
理由はわからない。
ただ、悠馬兄さんの名前じゃなく、俺の名前を呼んでほしかった。
「無茶するな」
その声で動きが止まった。悠馬兄さんだった。
すこし、眉をひそめている。
「最初から、飛ばしすぎだ」
「……先輩みたいに?」
言ってから後悔した。
でも、言葉は戻らない。
悠馬兄さんは一瞬だけ驚いた顔をした。
そして、ゆっくりと息を吐く。
「僕は十八年かけてここにいる」
その声は静かだった。
「比べる場所が違う」
その言葉は正しかった。だからこそ、胸に刺さった。
その夜、一人になって俺は気づいた。
この気持ちは怒りでも、憧れでもない。
「羨ましさ」だ。
そして、少しの、、、怖さ。
もし、このまま成長したら。もし、悠馬兄さんがこの学校を出ていったら。
兄さんは来年卒業するんだぞ……
その時、俺はどうなる?止めてくれる人はいるのか?
選んでくれる人はいるのか?
知らない感情が胸の奥で形になり始めた。
名前はまだない。
でも、確かにそこにある。
ーーー悠馬兄さんを追いかけるだけでは足りない。ーーー
そんな気が初めてした。
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AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




