第六部 第十話 悠馬、視察という名目
悠馬君里帰り?の回ちなみに悠馬君はもちろん、ノア君も日本話せます。拓海パパンがいるからね!
それは、会議の最後に付け足される形で出てきた。
「……もう一件あります」
エドワードが、資料を一枚、テーブルに置く。
ハミルトングループ・日本進出計画。
ホテル事業。
現地視察。
よくある話だ。
拡張。
再編。
市場確認。
どれも、今の自分の管轄に入る。
「現地での判断が必要になる」
エドワードは、淡々と言った。
「数字だけでは拾えない部分もある」
ジェシカが、画面を切り替える。
「既存のレポートは揃っているわ」
「でも」
一拍。
「“空気”は行かないと分からない」
それも、正しい。
拓海が、腕を組んだまま言う。
「現場、日本は独特だ。
現地で見ないと、噛み合わねぇ」
全員、仕事の話をしている。
感情は、どこにも出てこない。
だからこそ、断る理由もない。
「……期間は」
自分の口から、自然に言葉が出た。
「短期でいい」
ジェシカが答える。
「視察と初期調整だけ。長期滞在は想定していない」
ノアが、少しだけ姿勢を正した。
「……同行、した方が?」
その言葉に、誰もすぐには答えない。
否定もしない。
ジェシカが、穏やかに言った。
「現場を見るいい機会ね」
拓海が、短く頷く。
「日本の現場、勉強になるぞ」
エドワードは、視線をこちらに向けた。
「問題があるなら、今言え」
考える。
業務的には、行くべきだ。
責任範囲でもある。
ーーーそれだけだ。
「……問題ありません」
そう答えた。
それで、決まった。
誰も、特別な言葉を使わない。
“帰国”とも、“里帰り”とも言わない。
ただの、視察。
ただの、仕事。
会議が終わる。
席を立ちながら、ノアが小声で言った。
「……日本、ですよね」
「そうだな」
それ以上、何も言わなかった。
思い出も、感慨も、まだ整理されていない。
五歳で離れた場所。
そこで暮らしていたはずの自分。
考えるには、早い。
今は、仕事として行く。
それだけでいい。
廊下を歩きながら、拓海が、ぽつりと言った。
「飯は、うまいぞ」
「……参考にします」
それだけで、会話は終わった。
日本行きは、決まった。
理由は、視察。
名目は、仕事。
それ以上の意味は、まだ付いていない。
だけど。
環境が、静かに動いた。
それだけは、確かだった。
~佐伯悠馬・一人称~
出発前の、ほんの小さな違和感
出発の準備は、驚くほど淡々と進んだ。
日程確認。
資料整理。
現地での予定。
いつも通りだ。
荷物も、必要最低限にまとめた。
仕事用の端末。
書類。
着替え。
……それだけ。
「兄さん」
ノアが、荷物を見て言った。
「少なくない?」
「十分だ」
「日本だよ?」
「視察だ」
「いや、そうだけど」
ノアは、少し言い淀んだ。
「……私物、これだけ?」
悠馬は、一瞬考えてから答える。
「必要ない」
嘘ではない。
思い出も、
記念品も、
特別なものも。
五歳で置いてきた場所に、今さら持っていく理由はない。
ノアは、それ以上何も言わなかった。
だが、視線が少しだけ、気になった。
出発前夜。
端末を閉じ、部屋の灯りを落とす。
いつもなら、ここで何かを確認する。
明日の予定。
連絡事項。
未処理の案件。
だが、今夜はなぜか、それが頭に浮かばない。
代わりに、ふと考えた。
ーーー日本。
五歳以来、行っていない場所。
懐かしいかどうかも、分からない。
思い出があるのかどうかも、正直、曖昧だ。
「……」
考え始めると、何も掴めない。
だから、考えないことにした。
これは、仕事だ。
ただの、視察。
そう言い聞かせて、ベッドに横になる。
その時。
胸の奥に、小さな引っかかりを感じた。
不安でも、期待でもない。
名前の付かない、違和感。
眠りに落ちる直前、それだけが残った。
ーーー行ってみないと、分からない。
その感覚だけが、いつもより少し、強かった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




