第六部 第八話 ノア、分からないまま、前に立つ / 悠馬、静かに、全部拾う*
ノア:やらかし担当の犬(大型犬)
正直に言えば、最近の現場は、前より静かだ。
怒鳴り声は減った。
露骨な反発もない。
だからといって、うまくいっている気もしない。
「……ノア様」
声をかけられるたび、少しだけ緊張する。
自分が、“判断する側”に見られているからだ。
「この件ですが」
「はい」
「佐伯さんならどう判断します?」
来た。
その問いが来るたび、ノアの中で、
何かが一段重くなる。
「……」
一瞬、兄の顔が浮かぶ。
迷わず、最短距離を選ぶ姿。
でも、それをそのまま出すと、また誰かが置いていかれる。
「……まず」
ノアは、意識して言葉を区切る。
「現場の条件をもう一度整理しましょう」
その場は、それで動く。
動くが。
視線の端で、誰かが少しだけ肩を落とすのが見える。
ーーー拾いきれなかった。
そう思う瞬間が、一日に何度もある。
「……」
ノアは、自分の拳をそっと握った。
自分は、橋を架けているつもりだ。
でも、”その橋”がどこに繋がっているのか、時々分からなくなる。
胸の奥で何度も反芻される言葉。
『兄さんは、この状態をずっと一人でやっていたのか』
そう思うと、胸が少し痛む。
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~佐伯悠馬・一人称~
ノアが前に立っている。
その事実は、数字よりも、空気で分かる。
報告の言葉が、少し遠回りになる。
”決定までに、一拍増える。”
それ自体は、悪くない。
問題は、その“後”だ。
会議で止まった案件が、なぜか自分の端末に届く。
誰も頼んでいない。だが、回ってくる。
ーーーまだ、完全には切れていない。
僕は、何も言わず処理する。
判断し、
整理し、
静かに流す。
ノアの名前は出さない。
自分の名前も出さない。
ただ、“結果”だけを残す。
それが、今の最適解だと思っている。
思っている、が。
違和感は消えない。
正しさはある。
でも、
余裕がない。
それが、ノアの進行にも、
自分の裏の動きにも同時に現れている。
「……」
端末を閉じ、一瞬だけ目を閉じる。
これは、仕事の問題ではない。
だが、仕事を通して露呈している。
どうすればいい?
答えは、まだない。
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~ノア~
”正直さが、時々刺さる”
「……正直に言うと」
ノアは、現場でそう切り出した。
「この判断、全員が納得する形には
ならないと思います」
空気が、少し固まる。
言ってから、しまったと思う。
だが、引っ込められない。
「でも」
続ける。
「今やらないと、後でもっと苦しくなる」
誰かが、小さく息を吐いた。
「……それは」
「分かってる人の言い方だな」
ノアは、一瞬、言葉を失う。
違う。そうじゃない。
分かってる“つもり”で言ったわけじゃない。
守りたいだけだ。
でも、そう言えば言うほど、距離ができる。
橋が、軋む。
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~悠馬~
”かき回される理由”
その日の終わり、ノアが部屋に来た。
珍しく、黙ったままだ。
「……どうした」
声をかけると、ノアは少しだけ顔を歪めた。
「兄さん」
「俺」
「正しいこと、言ってるよな」
唐突だ。
「……状況による」
正直に答える。
「でもさ」
ノアは、続ける。
「正しいって言われると、余計に
分からなくなる人もいるんだな」
その言葉で、胸の奥が小さく鳴った。
「……そうか」
それしか言えなかった。
ノアは、俯いたまま続ける。
「兄さんみたいに全部見えてたら、
楽なのかなって思ってた。
でも、見えてるからこそ、苦しいんだな」
思わず、小さく笑ってしまった。
「……楽ではないな」
「だよな」
二人の間に、変な沈黙が落ちる。
重くない。でも、軽くもない。
この沈黙が、今の自分たちだ。
完璧じゃない。並べてもいない。
それでも、別々の場所で同じ混乱を抱えている。
「……兄さん」
「なんだ」
「俺、また何かやらかすと思う」
ノアは、真面目な顔で言った。
「多分。でも、、、その時は、言う」
悠馬は、少しだけ考えてから頷いた。
「……そうしてくれ」
「怒らない?」
「怒る」
「……」
「だが、置いていかない」
ノアは、少しだけ安心したように笑った。
グダグダだ。
整理されていない。
答えも出ていない。
だけど。
かき回されている、という感覚だけは確かにあった。
それは、一人で抱えていた頃にはなかったものだ。
ーーーこの混乱は、悪くない。
そう思えた時点で、少しだけ前に進んでいる。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




