幕間 この家には、違う種類の”強い人”がいる
幕間その2
悠馬がハミルトン帝国の構造を見た日
~十三歳の僕は、それを静かに観察していた~
Ⅰ:ジェシカ叔母さまは、だいたいいない
ジェシカ叔母様は、家にいる人ではなかった。
ノアが八歳、僕が十三歳のころ。
叔母様は一年の半分を『アメリカのIT企業のCEO』として過ごしていた。
「今週は戻れないわ」
電話越しの声。
背景はガラス張りの会議室。
速い議論。
(この人、生活感がないな)
でも、不思議と”家は回って”いた。
Ⅱ:叔母様の決断は、短くて雑に見える
ある日、ハミルトングループでちょっとした揉め事が起きた。
「……ジェシカに聞くか」
父さんたちが電話をかける。
『三分で説明して』
説明…説明・・・説明。
『で。誰が一番困るの?』
一瞬の沈黙。
『わかったわ。それはやめなさい』
切断。
(え?それだけ?)
理由もきかない。代案も出さない。
でも、あとから必ずわかる。
(……確かに荒れ続けてたら面倒になってたな)
僕は思った。この人「把握」してるんじゃなくて「未来を切ってる」んだ、と。
十三歳の僕はそのやり方を心の中で
「強いけど真似したら死ぬやつ」
と、分類した。
Ⅲ:菜摘母さんは、ずっとそこにいる
対照的に、菜摘母さんはどこにも行かなかった。
屋敷の会計、使用人の配置、食費、雑費、全体的な予算。
すべてが「帳簿として積みあがる」
「……ふうん」
数字を見てそういうだけ。
誰にも説明しない。
でも次の日。
「あれ?」 父さんが言う。
「最近、自由に使える金減ってない?」
「ええ」 即答する菜摘母さん。
「今は締める時期だから。」
理由、それだけ。
(……怖)
僕は思った。
(菜摘母さんは怒らないし、声も荒げないけど
……金で道を塞ぐタイプだ)
十三歳の僕は、ここでもう一つ分類を増やした。
「静かにしてるけど、一番逆らえない人」
Ⅳ:パパンズは、少しづつ後ろに下がる
父さんとエドワード叔父上は、このころまだ前に出ていた。
「ノアは大丈夫か?」
「悠馬、無理していないか?」
守る側の人たちだった。でも、、いつの間にか……。
「……それはジェシカに…」
「……家の中は菜摘が…」
判断を渡す回数が増えていった。
「……なあ」
父さんが言う。
「俺たち、いつの間に後ろに下がった?」
「……押し出されたわけじゃないな」
エドワード叔父上が答える。
「「自分で退いた」」
なるほど・・・
僕は思った。
前に立つ人が二種類いると父親は自然に退くんだ……。
Ⅴ:十三歳の僕の、雑な分析
その頃の僕は、こう考えていた。
・ジェシカ叔母様
→未来を切る人
→いないのに効く人
→たまに怖い
・菜摘母さん
→現在を締める人
→ずっと効く
→常に怖い
・父さん&エドワード叔父上
→守る人
→だんだん後ろ(NEW!)
僕は思った。
……この家「強い人」が一人じゃない。
……役割分担ができている。
その時は深く考えなかった。ただ、覚えた。
Ⅵ:そして……
~~十三歳の僕の分析は、まだ無邪気だった~~
このころの僕は、ただ、「分類していただけ」だった。
・遠くで未来を切る人
・近くで現在を締める人
・前に立つ父たち
・後ろに下がる父たち
……なるほど。この家、強い人が何人かいる。
それだけで安心していた。まだ知らなかった。
この配置が「守るため」ではなく、「使うため」に完成していたことを。
そして、数年後に。
僕が前に立ち、決断を引き受ける立場になったとき。
ふと、この光景を思い出す。
そして気づく。
あの時の僕はもう一つ見落としていた。
この家で一番怖いのは
「声を荒げる人でも、前に立つ人でもない」
黙って正しい配置を作っていた人たちだ。
そして……
「その配置を迷わず使えるように育ってしまった」のが今の僕だ。
十三歳のころの分析はまだ無邪気だった。
だけど。
今の僕はそれを武器として使っている。
この家が静かに回っていた理由をようやく理解しながら。
……この家は、もう戻れない。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




