第六部 第四話 悠馬、言えなかったことの代価
だから悠馬君?なんなら怒っていいのよ?
それを“評価”として突きつけられたのは、
正式な場だった。
会議でも、雑談でもない。報告書だ。
現場から上がってきた、リスク分析の一文。
> 「佐伯体制下では、
> 判断速度と成果は向上しているが、
> 一部現場において
> “切り捨てられる恐怖”が
> 共有され始めている」
目が、止まった。
『切り捨てる』
その言葉は、これまで耳にしてきた噂より、はるかに重かった。
恐怖、という単語が添えられているからだ。
恐怖は、数字では測れない。
仕事として処理できない。
胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。
その日の夕方、ノアが訪ねてきた。
いつもより、静かだった。
「……兄さん」
声が、少し硬い。
「今、時間ありますか」
「ある」
即答した。
ノアは、一歩踏み出してから、立ち止まる。
言うか、言わないか。
その迷いが、はっきりと見えた。
「……俺」
一拍。
「俺、やらかしました」
その言葉で、すべてを察した。
「……どの件だ」
静かに聞く。
「現場で…橋を渡らせようとした時です」
ノアは、視線を落としたまま続ける。
「正しいことを言ったつもりでした…。
でも、、言い方を間違えました」
その“でも”の後が、一番重い。
「……その後何も、言えませんでした」
沈黙。
ああ、と内心で理解する。
だから歪んだ。
だから増幅した。
だから、人格否定にまで落ちた。
「……どうして」
問いは、責めるためではない。
「どうして、言えなかった」
ノアは、しばらく黙っていた。
そして、絞り出すように言う。
「兄さんの判断を疑ってるって思われたくなかった」
「………」
「俺の失敗で、兄さんの評価を落としたくなかった」
その言葉は、あまりにも真っ直ぐで、少し痛かった。
守ろうとして、沈黙した。
その結果、余計に傷を広げた。
僕は、息を吐いた。
「……怒ってはいない」
事実だった。
怒りは、ここにはない。
「ただ」
言葉を選ぶ。
「これは、一人では防げない類の問題だ」
ノアが、顔を上げる。
「……俺」
「橋を落としました」
「落としたな」
否定しない。
だが、続ける。
「でも、落ちたのは、橋だけじゃない」
「……」
「言えなかった沈黙も、一緒に落ちた」
ノアは、唇を噛んだ。
「……どうすれば良かったんですか」
その問いは、初めてだった。
答えを、求める問い。
だが。
「……分からない」
正直に言った。
ノアが、驚いた顔をする。
「俺も、まだ分かっていない」
これも、事実だ。
「ただ…一つだけはっきりした」
視線を合わせる。
「言えなかったことは」
「必ず、別の形で言われる。
それが、今回の評価だ」
ノアは、ゆっくり頷いた。
「……俺の沈黙が刃になった」
「そうだ」
静かに認める。
責めない。
慰めない。
ただ、並ぶ位置で事実を共有する。
これが、並ぶということだ。
問題は、まだ解決していない。
噂も、評価も、消えていない。
だけど。
原因の一部は、見えた。
それだけで、今日のところは十分だ。
ノアは、小さく頭を下げた。
「……次は、、
次は、一人で抱えない」
その約束が、どこまで守られるかは分からない。
でも。
今は、それでいい。
並ぶというのは、完璧になることじゃない。
失敗を、一緒に引き受けることだ。
そう、初めて理解した瞬間だった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




