第六部 第二話 悠馬、引いた位置で、走る
一方その頃、ノア君は職場の女性陣に囲まれて飲みに行ってるのであった。(合掌)
会議が終わったあと、ノアはしばらく席を立たなかった。
資料を見直し、メモを整理し、もう一度、全体を確認している。
その姿を、僕は一歩引いた位置から見ていた。
いい進行だった。丁寧で、誠実で、現場の声も拾えている。
だからこそ。
『見えてしまう』
遅れている箇所。
迷いが生じた判断。
先送りにされた決断。
どれも致命的ではない。
でも、積み重なると重い。
ノアに言うべきか。今は言わないべきか。
ーーー今は、言わない。
それが、今日の選択だった。
僕は席に戻り、端末を開く。
会議で決まらなかった点を、静かに整理する。
誰にも知らせない。議事録にも残さない。
”裏で回す”
ノアが前に出ている以上、僕が表に出るわけにはいかない。
だから、速度を上げる。
判断をまとめ、必要な連絡だけを最短で流す。
確認は自分で済ませる。質問は投げない。
ーーーこれは、以前と同じやり方だ。
違うのは、“見せない”という点だけ。
昼を過ぎても、時計を見なかった。
胃の奥が、少しだけ重い。
でも、気にするほどではない。
これくらいなら、まだ走れる。
午後、ノアが近づいてくる。
「……さっきの件、あれで良かったですか」
その問いに、即答してしまいそうになるのを抑えた。
一拍置く。
「良かった」
事実だ。
それから、言い添える。
「迷ったところは、悪くなかった」
ノアは、少しだけ驚いた顔をして、頷いた。
「……ありがとうございます」
彼が去ったあと、僕は椅子にもたれた。
並ぶ、というのは、支えることだ。
前に立つ人間を、軽くすることだ。
そのために、自分が重くなる。
それは、今までと何が違う?
答えは、出ない。
夕方。
現場からの連絡が、一件、二件と入る。
ノア宛のものも、なぜかこちらに回ってくる。
”まだ、完全には切り替わっていない。”
それも分かっている。
僕は、黙って処理する。
ノアに回すべきもの。自分で終わらせるもの。
線を引く。
引いて、越える。
夜。
オフィスが静かになる。
照明の落ちたフロアで、自分の足音だけが響く。
ふと、思う。
ーーーこれは、“頑張りすぎ”だろうか。
でも、立ち止まる理由もない。
ノアは、前に出ている。
それだけで、意味がある。
なら、自分は裏で走る。
誰にも見せず、
誰にも言わず。
それが、今の役割だ。
端末を閉じる。
視界が、一瞬だけ揺れた。
……疲れている。
分かっている。
だけど、まだ大丈夫だ。
この実験は、簡単に終わらせてはいけない。
並ぶということが、どういうことか。
結果が出るまで、走り続ける。
それが、自分の選んだ位置だから。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




