第8話 戻れぬ者たちの選択
王子のノエル・クラーク、
勇者アルト・ヴォイド、
そして騎士たちは、人間界の城へ戻っていた。
会議室に足を踏み入れた瞬間、
張りつめていた緊張が、ようやくほどける。
だが――
誰一人、軽口を叩く者はいなかった。
沈黙を破ったのは、ノエルだった。
「……アルト」
まだ少年の声。
けれどそこには、王子としての覚悟が滲んでいる。
「予想以上、だったな」
アルトは椅子に腰を下ろし、
ぎゅっと拳を握った。
「あぁ……」
「三歳だろ?」
「……たぶんな」
アルトは視線を落とす。
「なのに、あれだ」
言葉にしなくても、全員が理解していた。
――美しすぎた。
「正直さ」
アルトは、ぽつりと続ける。
「怖かった」
騎士たちが、息をのむ。
「魔力とか、威圧じゃない。
ただ……見ただけで、頭が真っ白になる」
「十歳の俺たちですら、あれだ」
ノエルは、静かに言った。
「成長したら……どうなる?」
答えは、誰からも返らなかった。
ノエルは、少しだけ目を伏せ、
そしてはっきりと告げる。
「放っておけば、
人間界と魔界の均衡は壊れる」
「でも――」
王子は、強く続けた。
「彼女は、壊すための存在じゃない」
アルトは、ゆっくりと頷く。
「……守られる側だ」
それは勇者としての言葉ではなく、
一人の少年としての本音だった。
ノエルは、決意を込めて言う。
「魔界と協定を結ぶ」
「人間界と魔界、両方で」
「彼女を、見守る」
「……よろしいのですか?」
騎士団長ギルベルトが、慎重に問いかける。
ノエルは、迷わなかった。
「あの子を敵に回す未来なんて、
考えたくもない」
アルトは、小さく息を吐く。
「……また、会えるよな」
誰に向けたとも知れない、その言葉。
ノエルは、静かに答えた。
「あぁ」
「必ずだ」
その瞬間、
少年たちはまだ知らなかった。
この“見守る”という選択が、
やがて――
恋となり、執着となり、世界を揺るがす
ということを。




