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魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした  作者: 月影みるく


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第35話 握る手、震えの理由

朝。


訓練場に立つセラフィナは、昨日より静かだった。


「……おはよう、クロウ」


「おはようございます、姫君」


木剣を受け取る手が、少しだけ硬い。


(怖い)


でも。


(逃げないって、決めた)


「本日は、型ではなく」


クロウが言う。


「“止める”練習を中心にします」


「止める?」


「はい」


クロウは、あえて剣を抜かなかった。


「姫君は」


「力を“出す”瞬間よりも」


「出そうになった時、体が固まります」


セラフィナは、はっとする。


(……当たってる)


「ですから今日は」


「剣を振る前に」


「止めてください」


「……え?」


「恐怖が来た瞬間に」


「剣を、下ろす」


一瞬、沈黙。


「……できるかな」


「失敗しても構いません」


「それでも」


クロウは、静かに続ける。


「“気づく”ことが、大切です」


* * *


構え。


踏み込み。


一歩。


(……来る)


胸の奥が、ざわりと波打つ。


あの時の光。

暴走。

血。


「……っ」


反射的に、腕に力が入る。


「姫君」


クロウの声。


「今です」


セラフィナは、ぎゅっと目を閉じ――


剣を、下ろした。


「……はぁ……」


息が、漏れる。


足が、少し震える。


「……できた?」


「はい」


即答。


「今のは」


「完璧でした」


セラフィナは、驚いて目を開く。


「え、でも」


「何も、してない」


「いいえ」


クロウは、はっきり言う。


「恐怖に、気づき」


「自分で、止まりました」


「それは」


「非常に、高度な制御です」


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


(……できないばっかじゃ、なかった)


* * *


次は、魔術。


小さな魔導陣。


「今日は、火も光も出さない」


魔王が言う。


「“揺らす”だけだ」


セラフィナは、うなずく。


集中。


胸の奥。


あの、大きな力。


(……大丈夫)


(少し、触るだけ)


空気が、ふるりと揺れた。


一瞬――


魔力が、跳ねかける。


「……っ!」


反射的に、止める。


空気は、静まった。


「……今の」


セラフィナが、恐る恐る言う。


「ちょっと、暴れそうだった」


「あぁ」


魔王は、頷いた。


「だが」


「抑えた」


重い沈黙のあと。


「……上出来だ」


短いが、確かな言葉。


セラフィナは、思わず笑った。


「……できてる?」


「できている」


魔王は、視線を逸らす。


「少しずつだがな」


* * *


訓練後。


石段に腰掛けて、息を整える。


「……ねえ、クロウ」


「はい」


「怖いってさ」


少し考えてから言う。


「なくならないんだね」


「はい」


即答。


「恐怖は」


「“守りたいものがある証”です」


セラフィナは、空を見上げる。


「……じゃあ」


「怖くても、いいか」


「はい」


クロウは、静かに続けた。


「姫君が立ち止まった時」


「私は、止まります」


「進まれた時は」


「一歩、後ろで剣を構えます」


「……後ろ?」


「前に出れば」


「姫君の視界を、遮ってしまいますから」


セラフィナは、くすっと笑った。


「……クロウらしい」


* * *


その夜。


誰も知らない場所で。


「……制御を、覚え始めたか」


低い声。


「あの姫は」


「思ったより、折れない」


闇の中の男は、口元を歪める。


「なら」


「次は、“外”から揺さぶる」


影が、静かに動いた。


* * *


セラフィナは、ベッドに横になりながら思う。


(怖いままでも)


(できること、あるんだ)


それは。


小さくて。

不完全で。


でも、確かな前進だった。


――恐怖を抱いたまま進む姫と、

――その成長を“試そうとする影”。


物語は、確実に次の段階へ進み始めていた。


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