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魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした  作者: 月影みるく


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第31話 夜の庭に落ちる影

魔界城・中庭。


夜の空気は、静かで冷たかった。


「……久しぶり」


セラフィナは、ゆっくりと石畳に足を下ろす。

外に出るのは、あの魔獣暴走の日以来だった。


夜の闇。

風の匂い。

魔力が、肌をなぞる感覚。


胸の奥が、きゅっと縮む。


「姫君」


隣で、クロウ・フェルゼンが歩幅を合わせる。


「無理は、なさらず」


「わかってる」


短く答えるが、声は少し硬い。


(……怖い)


一歩。

また一歩。


花壇のそばで、足がもつれた。


「……っ」


身体が傾く。


次の瞬間。


「失礼します」


クロウが、迷いなく手を取った。


強くはない。

けれど、確かで、離れない。


「……ありがとう」


「当然です」


クロウの声は、いつも通り敬語で、静かだった。


セラフィナは、深く息を吸う。


(……大丈夫)


(一人じゃない)


二人で、夜の庭を歩く。


その背後――


誰にも気づかれないほど、遠く。


闇の中で、何かが“視て”いた。


* * *


魔界城・執務室。


魔王は、机に積まれた書類を一枚、手に取った。


――人間界・某貴族家。

――魔界の姫の魔力に関する非公式調査。


赤い瞳が、細くなる。


「……調査?」


側近が、慎重に答える。


「正式な許可は出ておりません」

「ですが、舞踏会以降――」


「“姫の魔力は世界の均衡を超える”」

「そう噂が広がっております」


――カン。


机に、指が当たる音。


「……始まったか」


婚姻。

同盟。

次は――力。


「我が娘を」


魔王の声が、低く沈む。


「“資源”として見る者がいる」


「許可なく、近づくなと通達しろ」


「警備を、二重に」


「……いや、三重だ」


「はい!」


魔王は、窓の外を見る。


夜の庭。

小さな影と、それを包む騎士。


(……まだ、触れさせん)


(誰にも)


* * *


同じ夜。


セラフィナは、足を止めた。


「……クロウ」


「はい」


「最近、人が増えた気がする」


クロウは、一瞬だけ視線を巡らせる。


「……その通りです」


「理由、聞いてもいい?」


少し、迷ってから。


「姫君の魔力に、関心を持つ者が増えました」


セラフィナの眉が、わずかに寄る。


「……私の?」


「はい」


「研究、保護、同盟――」


「様々な名目で」


「……やだな」


ぽつりと、漏れる本音。


「また、誰かが傷つく?」


クロウは、即座に首を振った。


「そのようなことは、させません」


一歩、前に出る。


無意識に、盾になる位置。


「私は、ここにおります」


「何が来ても」


「必ず、姫君を守ります」


セラフィナは、少し困った顔で笑う。


「……それ、前も聞いた」


「何度でも、申し上げます」


「……ばか」


そう言いながら。


その手を、まだ離さなかった。


* * *


夜風が、花を揺らす。


静かな庭。

穏やかな会話。


だが、その裏で。


優しさを装った欲望が、

ゆっくりと、確実に――近づいていた。


それでも。


姫は、独りではない。

騎士は、離れない。

王は、許さない。


夜の庭に落ちる影は、

まだ――本当の姿を見せていなかった。


――嵐の前の、短い静けさ。


物語は、確実に次の局面へ進み始めていた。

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