表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした  作者: 月影みるく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/39

第25話 小さな違和感

朝の魔界城は、静かだった。


いつも通りの回廊。

いつも通りの庭。


なのに。


(……なんだろう)


セラフィナは、足を止めた。


風は同じ。

花も同じ。


けれど――


(見られてる)


視線。


それも、ひとつやふたつじゃない。


近衛の配置が、昨日より増えている。

廊下の曲がり角ごとに、誰かがいる。


「……クロウ」


自然と、名を呼んでいた。


「はい、姫君」


すぐに応じる声。


クロウ・フェルゼンは、いつもの半歩後ろ。


姿勢も、距離も、変わらない。


「……最近さ」


歩きながら、セラフィナは言う。


「人、増えてない?」


「はい」


即答だった。


「警備が、強化されております」


「……やっぱり」


セラフィナは、小さく息を吐く。


「私、何かした?」


「いいえ」


声は、静かで揺れがない。


「姫君は、何も」


それが逆に、引っかかった。


「……じゃあ、なんで?」


クロウは、一瞬だけ視線を伏せる。


ほんの、わずか。


「……姫君が」


言葉を選ぶ、短い沈黙。


「世界に、知られてしまったからです」


(知られた)


舞踏会の光景が、浮かぶ。


集まる視線。

止まらない囁き。


「……前から、知られてたよ」


「ええ」


クロウは、頷く。


「ですが“遠くから”でした」


「今は、違います」


「手を伸ばせば届く距離に、いらっしゃる」


その言葉に、胸がきゅっとした。


(……そっか)


「……私」


セラフィナは、立ち止まる。


「前と、何か変わった?」


クロウも、止まった。


「……変わっておりません」


「姫君は、姫君です」


少しだけ、声が低くなる。


「ですが」


「周囲が、変わりました」


「欲しがる者が、増えたのです」


欲しがる。


その言葉が、胸に残る。


「……私、物じゃない」


ぽつりと、言った。


「……はい」


クロウの声は、はっきりしていた。


「決して」


「だからこそ」


一歩、距離を詰める。


それでも、触れない。


「私は、剣を持ちます」


「奪われないために」


セラフィナは、クロウを見上げる。


「……クロウは」


「私が、どこにも行かないって思ってる?」


一瞬。


ほんの一瞬だけ。


クロウの瞳が、揺れた。


「……信じております」


「ですが」


「世界は、信じてくれません」


(……)


答えになっているようで、なっていない。


でも。


(嘘は、言ってない)


それだけは、わかった。


「……ねえ、クロウ」


「はい」


「私、怖がっていい?」


クロウは、迷わなかった。


「はい」


「怖がってください」


「そして」


「それでも前を向かれるなら」


「その隣に、私は立ちます」


その言葉に。


胸の奥の違和感が、少しだけ形を持った。


(……世界が、近い)


(近すぎる)


でも。


(私は、ひとりじゃない)


セラフィナは、ゆっくり歩き出す。


その半歩後ろで、クロウが歩く。


距離は、変わらない。


けれど。


見えない境界線が、

少しだけ、張りつめた。


――小さな違和感は。


嵐の、前触れだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ