第1話 目覚めたら、魔王の娘でした。
気づいたら、異世界でした。
しかも生まれた先は、恐怖と絶望の象徴――魔王の娘。
嫌われ、恐れられ、孤独に生きる。
そんな運命を覚悟していたはずなのに、
なぜか周囲は優しく、甘く、過保護すぎて……。
これは、
恐れられるはずだった魔王の娘が、
世界一の美貌を理由に溺愛され、
やがて“運命の恋”に出会うまでのお話です。
目を覚ました瞬間、まず思った。
――あれ、天国…?
視界いっぱいに広がるのは、黒曜石のように艶やかな天井。
宝石のような光を放つ魔法陣が静かに浮かび、空気は甘く、どこか重い。
(……病院じゃない)
次の瞬間、私の思考は完全に止まった。
小さすぎる。
身体が、ありえないほど小さい。
「――おお……!」
低く、しかし震えた声が響く。
ゆっくり視線を動かすと、そこには一人の男が立っていた。
漆黒の長髪、切れ長の紅い瞳、彫刻のように整った顔立ち。
――ありえないくらい、美しい。
(……誰? モデル? 俳優? いや、コスプレ……?)
混乱する私をよそに、男はそっと膝をつき、
信じられないほど優しい表情で、こちらを見つめた。
「無事に生まれてくれて、ありがとう」
その瞬間、脳内に一気に情報が流れ込んできた。
ここは異世界。
私は転生者。
そして――
(え、待って)
この人、
魔王……?
男の背後には、床に額を擦りつけるほど深く頭を下げる魔族たち。
重苦しい沈黙の中、誰かが震える声で口にした。
「魔王陛下……姫君のお名前は……」
魔王は、私を抱き上げる。
その腕は驚くほど優しく、壊れ物を扱うようだった。
「――セラフィナ・ノワール」
その名を告げられた瞬間、
胸の奥が、すとんと落ち着いた。
(……私の名前)
「我が唯一の娘だ」
周囲がどよめく。
「尊きお名前……!」
「なんという……神々しい……」
……え?
私は恐る恐る、自分の小さな手を見た。
白磁のような肌、細い指。
そして、周囲の視線が、あまりにも熱っぽいことに気づく。
(……なんで、そんな目で見るの?)
魔王――父、らしいその人は、私の額にそっと口づけた。
「安心しろ、セラフィナ。
この世界で、お前を傷つける者など存在しない」
その言葉に、魔族たちが一斉に跪く。
「「「姫君に永遠の忠誠を――!」」」
(……え?)
恐れられるはずの魔王の娘。
孤独な運命を背負うはずだった存在。
なのに――。
(もしかして……)
私は、魔王の腕の中で、静かに悟ってしまった。
この世界、私に甘すぎる。
そしてまだ知らない。
この先、魔界だけでなく、人間界すらも巻き込み、
“溺愛ルート”が確定していることを。




